20210625_日本自動車レース工業会_BCOMP_天然繊維材料_フォーミュラリージョナル_童夢_F1113

環境配慮の天然繊維プリプレグとレーシングカー開発

人とくるまのテクノロジー展2021取材記事。
今回は、JMIA(日本自動車レース工業会)の会員企業、株式会社童夢が取り組むBcomp社の天然繊維材料を活用した製品開発と、その天然繊維材料も用いて開発されたレーシングカー「童夢F111/3」を紹介する。
※本記事中の情報、画像の商用利用、無断転載を禁じます。

レーシングカーの開発、製造、メンテナンスからカスタマーチームのサポートまで請け負う童夢では、数年前からスイスBcomp社の天然繊維材料をレーシングカーや自動車部品へ応用すべく研究、開発を進めている。
以前、童夢の記事でBcomp社の天然繊維材料について紹介したが、今日までに国内でのプリプレグ化とその製造、販売まで行える環境を整えてきており、さらに後述のレーシングカー開発でもそのプリプレグを応用してくる等、着実にステップアップを果たしている。

20210625_日本自動車レース工業会_BCOMP_天然繊維材料_フォーミュラリージョナル_童夢_F1113_02
(C)JMIA / 童夢 / BCOMP
商用利用、無断転載を禁じます

当初は海外で製造されたプリプレグを輸入するプランを検討していたが、問題がいくつかあったという。
まず輸送にはプリプレグの冷凍保管が必要なため、輸送コストが増えてしまう事。
硬化条件と基準が違う為、童夢で使用する他のプリプレグと同じ様に成形出来ない事も判明した。
このままでは製品として採用できず、価格面でも普及の障害となってしまう。

20210625_日本自動車レース工業会_BCOMP_天然繊維材料_フォーミュラリージョナル_童夢_F1113_06
(C)JMIA / 童夢 / BCOMP
商用利用、無断転載を禁じます
20210625_日本自動車レース工業会_BCOMP_天然繊維材料_フォーミュラリージョナル_童夢_F1113_05
(C)JMIA / 童夢 / BCOMP
商用利用、無断転載を禁じます
20210625_日本自動車レース工業会_BCOMP_天然繊維材料_フォーミュラリージョナル_童夢_F1113_07
(C)JMIA / 童夢 / BCOMP
商用利用、無断転載を禁じます

そこで童夢では、天然繊維材料の知見を得る目的も兼ねて独自開発する事となったが、国内樹脂メーカーの協力も得られた事で国内でのプリプレグ化に成功。
Bcomp社とのパートナーシップの元、その国内製プリプレグを独自に販売出来るようになった。

現在販売中のものは、今現在で以下の一種類のみ。

【ampliTex5040】
綾織2/2縒り無し 幅(巾)1,000 mm 目付300g/㎡ 繊度300tex

詳細は童夢まで問い合わせ頂きたい。

ところでこの天然繊維材料だが、海外の自動車メーカーやF1、レーシングカー開発などで普及が進んでおり、ネットで検索すると多くの実績を垣間見る事ができる。
そして童夢でも、モータースポーツカテゴリー「Formula Regional Japanese ChampionShip(フォーミュラ リージョナル ジャパニーズ チャンピオンシップ)」向けに専用開発したレーシングマシン「童夢F111/3」に対し、国内製の天然繊維プリプレグを初採用している。

20210625_日本自動車レース工業会_BCOMP_天然繊維材料_フォーミュラリージョナル_童夢_F1113_01
(C)JMIA / 童夢
商用利用、無断転載を禁じます

ここで「​Formula Regional Japanese ChampionShip(フォーミュラ リージョナル ジャパニーズ チャンピオンシップ)」を簡単に紹介しておく。
FIA(国際自動車連盟)では、単座席競技車両(Single Seater:通称フォーミュラ車両)の各カテゴリーを、F1を頂点としたパワーウエイトレシオ順でランク付けしている。
その順番は、F1⇒F2⇒F3⇒FR⇒F4となっており、今回紹介するのは、F3とF4の間であるFR(​Formula Regional)の日本国内シリーズとなる。
その国内シリーズにおいて採用されたのが「童夢F111/3」で、国産初のFIA公認フォーミュラカーとなった。

主な特長を列挙してみる。
【マシン】
・CFRP製のボディーワーク。
・前後左右への衝撃吸収構造体の追加。
・HALO(頭部保護装置)の設置。
・サスペンションはインボードタイプのダブルウィッシュボーン形式で、ロッカーアームのシャフト全長を短くした童夢伝統の両持ち形式。
・視界確保の為、ノーズコーンに向けてシェイプダウン。
・徹底した構造技術解析と空力特性の追求により、レギュレーションで定められた最低重量680kgをクリアしながら、高剛性、低重心で良好なハンドリング性能を実現。
・6速バドルシフト。
【エンジン】
・アルファロメオの市販エンジンをベースとした、ATM製の4サイクルDOHC水冷直列4気筒インタークーラーターボ。
・オイル潤滑方式はドライサンプ形式。
・シリンダーヘッドのカムカバーは車体へのストレスマウント構造へ変更。
・1シーズンをエンジンリビルド無しで運用出来る耐久性の確保。

Formula Regional規則(2021年時点)として、サスペンションはダブルウィッシュボーンとする事が定められており、サードダンパーの使用やコーナースプリングにトーションバーを用いる事が禁止されている。
パワーユニット(エンジン)面でも基準となる出力特性が設けられており、パワーデリバリーでもFormula Regionalに見合った特性と最大出力のものを、適切なコストで提供出来るようにと定められている。
価格も車体79,483ユーロ、エンジン25,832ユーロ とFIAの設定した世界標準の規定価格(キャッププライス)が適用されなければならず、そこにはスペアパーツやランニングコストも含めなければならない。
とことん性能を追求したい側からすればかなり厳しい条件と言えるが、そこはレーシングカー制作で豊富な実績を誇る童夢
童夢F111/3」という最適解を見事に具現化させてきた。

20210625_日本自動車レース工業会_BCOMP_天然繊維材料_フォーミュラリージョナル_童夢_F1113_03
(C)JMIA / 童夢
商用利用、無断転載を禁じます

そんな「童夢F111/3」のコクピット前方のダンパーカバー部に、童夢で製造された天然繊維プリプレグが使われている。
なぜそこにだけ使われているか?
その理由は、その直下にGPSを搭載したいがためにある。

一般的に、CFRPに使われる炭素繊維(カーボン)は通電性を持つため電波遮断を起こしやすい。
そのためGPSや無線機等の電磁波を発する機器を搭載する際、旧来ではその周囲を、電波を通しやすいケブラー繊維素材やガラス繊維のGFRP製とする必要があった。
ただケブラーは高価、GFRPはCFRPより重いというデメリットがあったため、なるべく低コストかつ理想的な重量バランスを求めるレーシングカー開発においては、常に頭を悩ませる問題となっていた。

だが、それらの問題も天然繊維プリプレグを使う事で、理想とされるダンパーカバー直下へ綺麗に収められたという。
その結果、理想的な重量バランスの実現だけでなく、外観に余計なでっぱり等作る必要も無くなったため、空力抵抗の低減にも寄与する事となった。

20210625_日本自動車レース工業会_BCOMP_天然繊維材料_フォーミュラリージョナル_童夢_F1113_04
(C)JMIA / 童夢
商用利用、無断転載を禁じます

世界のモータースポーツでは、天然素材材料への置換の流れが大きくなりつつある。
特にコストキャップ制が導入されるF1などのカテゴリーでは注目されており、マシン開発への応用に向けた研究が盛んに行われている。
そんな中童夢では、数年内に国内で採用のレギュレーション化が予想されるBcomp社の天然繊維材料を調査分析したところ、その90%近くがampliTex品番5040であることが判明したという。
カーボンニュートラルな社会を目指し、多くの国や企業がその取り組みを進めている昨今。
時代の先を見越した開発をするなら、この天然繊維材料の採用を視野に入れるべきかもしれない。

今後も童夢ではカーボンニュートラルな環境作りへ貢献していくため、天然繊維材料をはじめ、生分解性の樹脂と石油由来以外の樹脂とを組み合わせた材料の開発など推し進めていくとの事だ。

【取材 –文】
編者(REVOLT-IS

【オンライン取材協力 – 写真協力 – お問合せ】
日本自動車レース工業会(JIMA)
(株)童夢

編者

REVOLT-IS立ち上げの発起人。サーキット走行会や草レースなど経験が豊富で、スポーツ系チューニングやセッティングに強い関心がある。 サーキットやストリート、ドリフトなどの走りのイベントへ積極的に顔を出しながら、カメラを構えつつ様々な考察をする毎日。