環境に配慮した天然繊維材料を使った自動車部品開発
人とくるまのテクノロジー展 2019取材記事。
今回は日本を代表するレーシングカーコンストラクター、株式会社童夢がレーシングカーや自動車部品への応用を目指して研究、開発中の天然繊維材料について紹介する。
古くは童夢-零、ジオット・キャスピタといったスーパーカー開発に国産F3000やF1、ルマン24時間などの耐久レース向けマシン開発などを手掛けてきた童夢。
現在もSuper-GTやフォーミュラマシン開発などでその活躍を見る事ができる。
ここ、日本自動車レース工業会(JIMA)ブースでは、童夢で開発、製造を行っているFIA-F4カテゴリのマシンを展示。
普段なかなか見ることのないフォーミュラマシンとあってか、多くのビジネスマンが足を止めてそれらを眺めていた。
そして、そのFIA-F4マシンのリアウイングに置かれた展示物が、今回注目している天然繊維材料を使って制作されたサンプル品。
一見すると我々がよく見るカーボン素材にも見えるが、これは、「亜麻(フラックス)」という天然繊維を使って開発されたコンポジット(複合材)素材。
カーボンコンポジットは炭素繊維を織り込んで製造されるが、こちらはその炭素繊維を天然繊維材料に置き換えたものと思ってていいだろう。
この天然繊維材料を開発したのは、スイスのBcomp社。
自動車やモータースポーツ、そしてスポーツ用品、航空機、宇宙産業向けとして、環境に考慮した天然繊維材料を開発、供給をしている。
EV含め、現在開発中の車にもっとも要求されているのが軽量化。
軽量化は燃費(EVでは電費)の向上に繋がるため、CO2削減効果が高いと期待されている。
そのせいか、近年は大幅な軽量化が見込めるカーボン製品の実用化を目指す企業も多い。
しかし、カーボン製品は製造時に大量のCO2を排出してしまうのとリサイクルが困難な点、石油由来の材料なため資源が枯渇する可能性といった懸念がある。
モータースポーツでは様々なクラッシュでバラバラのカーボン部品を見かけるが、だいたいは専門の機関に依頼して適切な処理による廃棄を行っている。
ちなみに一般家庭では燃えないゴミ扱いとなる。
そこでBcomp社の天然繊維材料。
製造時や焼却時でのCO2排出を大幅に抑える事ができ、リサイクルも容易。
さらに原材料となる「亜麻(フラックス)」自体、例えば1ヘクタールの亜麻植物に対し約3.7トンの二酸化炭素を吸収して酸素に変換する性質を持っている。
自動車部品、特にモータースポーツ部品への応用では、材料そのものの引張強度は炭素繊維に及ばないが、Bcomp社のampliTex(織物材料)とpowerRibs(網状の材料)を併用する事でCFRP製品と同等の剛性感が維持でき、更なる軽量化も目指せる。
さらに振動減衰性はCFRP製品より優れているため、事故の際には破片の飛散を防ぐ事も可能という。
まさに夢の素材。
従来のカーボン製品と同等以上の特性を持ち、尚且つカーボンニュートラルの実現によるサスティナブルな車社会やモータースポーツも現実味を帯びてきそうだ。
そんなBcomp社の天然繊維材料をどのように活用できるか?
童夢でも研究を進めていたようで、市場の反応を見るべく、この度展示会で提案してみようと持ち込まれた。
Bcomp社の天然繊維材料はヨーロッパで多くの実績があり、その強度、剛性、軽さは高いレベルにある。
既にスウェーデンの自動車メーカー「ボルボ」とも密接な協力関係を築いており、従来部品から50%の重量軽減と高いリサイクル率を達成した実績もあげている。
さらに2021年時点では、F1チームの名門マクラーレンがドライバーシートの素材に応用したり、ポルシェ・モータースポーツがカスタマーチーム向けに販売中のポルシェ・ケイマン718 GT4 CSMRには、Bcomp社の天然繊維材料を使って開発されたボディーワークキットが搭載されている。
それだけでなく、炭素や木の繊維とのハイブリッド品など応用を効かせたコンポジット製品も開発されており、カーボンファイバー単体で作られたものより、高い品質を誇るものも出来つつある。
様々な技術革新が、今も着々と進行中のようだ。
【取材 –文 – 写真】
編者(REVOLT-IS)
【取材協力 – 問い合わせ先】
人とくるまのテクノロジー展事務局
日本自動車レース工業会(JIMA)
(株)童夢