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サスティナブル(持続可能)な国産レーシングカー開発

20210728_JMIA日本自動車レース工業会_Jsae_BCOMP_天然繊維プリプレグ_フォーミュラリージョナル_童夢_F1113
(C)JMIA / 童夢
商用利用、無断転載を禁じます

人とくるまのテクノロジー展2021取材記事。
今回は、JMIA(日本自動車レース工業会)の会員企業、株式会社 童夢がサスティナブル(持続可能)なレーシングカーを目指して開発された「フォーミュラ・リージョナル」向けフォーミュラカー「童夢F111/3」について紹介する。
※本記事はこちらの記事と関連しております。
※本記事中の情報、画像の商用利用、無断転載を禁じます。

20210625_日本自動車レース工業会_BCOMP_天然繊維材料_フォーミュラリージョナル_童夢_F1113_02
(C)JMIA / 童夢
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童夢F111/3」は、FIA国際自動車連盟が2017年に定めた「Formula Regional」規則に沿って開発されたマシンで、国内で開催されている​​Formula Regional Japanese ChampionShip(フォーミュラ リージョナル ジャパニーズ チャンピオンシップ)では、このマシンのワンメイクとなっている。
その主な特徴は次の通り。

【マシン】
・CFRP製のボディーワーク。
・前後左右への衝撃吸収構造体の追加。
・HALO(頭部保護装置)の設置。
・サスペンションはインボードタイプのダブルウィッシュボーン形式で、ロッカーアームのシャフト全長を短くした童夢伝統の両持ち形式。
・視界確保の為、ノーズコーンに向けてシェイプダウン。
・徹底した構造技術解析と空力特性の追求により、レギュレーションで定められた最低重量680kgをクリアしながら、高剛性、低重心で良好なハンドリング性能を実現。
・6速バドルシフト。
【エンジン】
・アルファロメオの市販エンジンをベースとした、ATM製の4サイクルDOHC水冷直列4気筒インタークーラーターボ。
・オイル潤滑方式はドライサンプ形式。
・シリンダーヘッドのカムカバーは車体へのストレスマウント構造へ変更。
・1シーズンをエンジンリビルド無しで運用出来る耐久性の確保。

Formula Regional規則(2021年時点)では、サスペンションはダブルウィッシュボーンのみでサードダンパーの使用やコーナースプリングにトーションバーを用いる事も禁止。
パワーユニット(エンジン)は基準となる出力特性が設けられており、パワーデリバリーでもFormula Regionalに見合った特性と最大出力のものを、適切なコストで提供出来るようにと定められている。
価格も車体79,483ユーロ、エンジン25,832ユーロ とFIAの設定した世界標準の規定価格(キャッププライス)が適用されなければならず、さらにそこへスペアパーツやランニングコストも含めなければならない。
とことん性能を追求したい側からすればかなり厳しい条件と言えるが、そこはレーシングカー制作で豊富な実績を誇る童夢。
童夢F111/3」という最適解を見事に具現化させてきた。

さらに、最新のドライバー保護や今後FIAでの導入が検討されている人間工学を最優先したデザインを取り入れていたり、高温多湿な環境下でのパワーユニット(エンジン)冷却性能や整備性向上にも配慮されている。

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(C)JMIA / 童夢
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そして注目なのが、数年前から童夢で開発、製造に取り組んでいる天然繊維プリプレグの採用。
現在は「童夢F111/3」のコクピット前方のダンパーカバー部に使われており、狙い通りの効果を発揮しているという。

どのような狙いか?
それは、その直下にGPSを搭載するため。

一般的に、CFRPに使われる炭素繊維(カーボン)は通電性を持つため電波遮断を起こしやすい。
そのためGPSや無線機等の電磁波を発する機器を搭載する際、旧来ではその周囲を、電波を通しやすいケブラー繊維素材やガラス繊維のGFRP製とする必要があった。
ただケブラーは高価、GFRPはCFRPより重いというデメリットがあったため、なるべく低コストかつ理想的な重量バランスを求めるレーシングカー開発においては、常に頭を悩ませる問題となっていた。

だが、それらの問題も天然繊維プリプレグを使う事で、理想とされるダンパーカバー直下へ綺麗に収められたという。
その結果、理想的な重量バランスの実現だけでなく、外観に余計なでっぱり等作る必要も無くなったため、空力抵抗の低減にも寄与する事となった。

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(C)JMIA / 童夢
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(C)JMIA / 童夢
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そして現在は、天然繊維プリプレグをどこまで適用できるかその範囲を検証すべく、ボディカウルを試作してテストを行っている。
テスト結果が良ければ価格や軽量化だけでなく、材料特性からメカの配置や重量バランスにも良い変化が生まれるかもしれない。

今や世界のモータースポーツでは、天然素材材料への置換の流れが大きくなりつつある。
これも、世界で叫ばれている環境問題やカーボンニュートラル社会下でのサスティナブル(持続可能)なモータースポーツを目指していくため。
コストキャップ制が導入されるF1などでも、マシン開発への応用に向けた研究が盛んに行われている。

国内では童夢以外でこのような研究、開発の目立った動きが見られないが、世界の潮流を見る限り、いずれ日本も対応に迫られるはず。
やはりここは「Formula Regional Japanese ChampionShip(フォーミュラ リージョナル ジャパニーズ チャンピオンシップ)」と「童夢F111/3」を、その試金石として注目すべきだろう。

【取材 –文】
編者(REVOLT-IS

【オンライン取材協力 – 写真協力 – お問合せ】
日本自動車レース工業会(JIMA)
(株)童夢