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レースタイヤから市販タイヤへ – モータースポーツ開発最前線2019

20190519_モータースポーツシンポジウム

こちらの記事で紹介した公益社団法人「自動車技術会」主催の”モータースポーツ技術と文化”をテーマとしたシンポジウム。
ここでは各コンテンツの内容を紹介していく。

【ULTIMAT EYEのレースタイヤ技術開発への活用 – モータースポーツ開発最前線2019】
登壇:(株)ブリジストン 桑山 勲氏

昭和5年に純国産タイヤ第1号を誕生させて以来、国産、外車問わず様々な車の足元を支え続けてきたブリジストン。
国内モータースポーツでも黎明期からサポートし続けており、海外でも第一期のドイツツーリングカー選手権(DTM:1991~1996)、FIA-GT(1997~1998)、F1(1997年~2010年)、インディー・カーシリーズ(ファイアストンブランドとして)、ルマン24時間レース、motoGP(二輪:2002~2015)、世界耐久選手権(二輪)で数々の高い実績を残している。

国内メーカーの多くの車に純正採用され、海外からも自社のフラグシップモデルに採用したいと指名がくるほど高いブランドイメージを持つブリジストンだが、ことタイヤそのものについては一般には深く認知されているわけではない。

”レースタイヤと街乗りタイヤは別”
”タイヤはどれでも同じもの”
”なら安いタイヤを買う”

恐らくこういった反応が大半だろう。

そこで今回は、講演で伺った話を元に、レースタイヤと街乗りタイヤがどのように関連しているかを記してみたい。
開発工程や考え方を少しでも理解する事で、自分達のカーライフに本当に合ったタイヤ選びや、モータースポーツ競技をより楽しくみる事に繋がると確信する。

20190519_モータースポーツシンポジウム_01

どれだけマシンがよくても、タイヤがダメでは速くも長くも走れない。
近年のスーパーGTではラップタイムは年々向上しているし、一般のサーキット走行会やタイムアタックイベントでも、新型タイヤを装着しただけで1~2秒もタイムアップしたなんて話もある。

一見すると、”ゴムが柔らかかったんでしょ?”と片付けられてしまいがちだが、お話を聞くと、タイヤとは実に複雑な組み合わせで成り立っている事がわかる。

例えば路面と接地するトレッド面一つ取ってみても、ゴムのコンパウンド、トレッド面の形状を保持する構造、ウェット性能を決める溝と各ブロックの形状、配置といった具合に、実に様々な要素が絡みあっている。

タイヤとは、全てのトレッド面が路面に均一に設置する事で性能を発揮できる。
まずこれが基本前提となる。

ただゴムが柔らかいだけではグニャと腰砕けになってしまい、車体を安定して支えられない。
かと言ってゴムをただ固くするとグリップ力が低下してしまい、振動も激しくなって乗り心地が悪くなる。
そしてグリップ力をあげるには溝無しタイヤがいいのだが、雨の事を考えるとそうもいかない。
なら溝をたくさん増やしてしまうとグリップ力は落ちるし、ロードノイズが増大してうるさく感じる。
溝があると各ブロックの固さ、構造もバランス良くしなければならない。
柔らかく溝も多いようでは、耐久性も落ちてくる。
グリップ力の上げ過ぎも問題だ。
逆に抵抗になってしまい、前へ進むのによりエンジンパワーが必要となるため燃費が悪くなる(足がくっつくようなネバネバする場所を歩いたときの事を想像してみてほしい)

どうだろ?
ざっとあげてみても、これだけ相反する条件が絡み合ってくるのだ。

これらを完璧に克服する事は大変困難であり、そのため昔は、すぐにグリップするが持たないタイヤ、なかなかグリップしないが持ちは良いタイヤといった具合に、車のやオーナーの利用用途によって使い分けられていた。

しかし、コンピュータの進化とそれに伴う解析技術の発達により、近年は相反する条件を高い次元で併せ持ったタイヤが出始めている。

モータースポーツとはいえ、実際のところはレースタイヤも街乗りタイヤも作りや開発はそんなに変わらないらしく、ただタイヤに求められる各要素をレース向け、街乗り向けに振ってあるに過ぎないそうだ。
レーダーチャートをイメージするとわかりやすいかもしれない。

仮に100kmレースの場合は100kmを走りきるだけでの耐久性があればよく、その余裕ぶんをグリップや他の部分に割り当てて向上を図れる。
だが街乗りの場合、100kmでダメになっていたらたまらない。
サーキットレースほどのグリップが必要のない街乗りの公道では、そのぶんタイヤの持ちや耐久性、静粛性などといった要素を高めていると思ってもらえればいいだろう。

ただ近年は、こういった相反する要素を一定のレベルまで両立させたタイヤも出始めている。
グリップもよく高燃費、ウェット性能もあるなど、自動車量販店に置かれているタイヤを見てもらうと、そのような謳い文句を見かけた方も多いはず。
なぜそのようなタイヤが作れるようになったか?

それは、タイヤの各要素に振り分けられる余裕の多さにポイントがある。
ある性能基準に対して各要素に振り分ける余裕の量が多ければ多いほど、どの要素も均等に近い状態に設定する事ができる。
昔に比べてなんとも夢のような話がなのだが、それも、モータースポーツでのレースタイヤ開発で技術が磨かれ、鍛えられたからこそ。

我々の街乗りレベルでは考えられない負荷がタイヤに襲い掛かってくるモータースポーツ。
その結果がどのような事になるのか?
それを嫌というほどその場で突きつけられる厳しい現場だ。
時に限界を超えてパンクしたりする事もあるが、その都度タイヤへの力の加わり方、材料、構造、開発手法含めて何度も見直し、どうやったら限界へ高める事が出来るか解析を繰り返す。
そしてそこから得られた無数のデータから素早く正解を導き出し、新たなタイヤを作りだしていく。

そんなシビアな開発現場の今だが、ブリジストンではタイヤ予測技術と計測技術を高い次元で融合させ、タイヤ接地特性の向上を図る独自の技術”ULTIMAT EYE”を構築している。
どういうものか?
つまり予測、計測をそれぞれ単体で完結させるのではなく、Aという目標でタイヤのシミュレーションモデルを作成した場合、それがどのような挙動を示し、騒音、グリップ、持ちなどといった要素にどう変化するかを即座に割り出し、開発チームにフィードバックするというものだ。
現在はFEM解析を主に活用しており、より分析力と結果を得るまでのスピードを高めるため最新鋭のスパコンまで導入しているという。
これだけでかなり金がかかっている印象。
この計測技術は他のタイヤメーカーも関心が高かったようで、講演完了後に他のタイヤメーカーから際どい質問が盛んに飛んでいた。

最新鋭のコンピュータ技術で作られるタイヤ達。
とは言えタイヤは生もの。
実走行やテストドライバーの反応、実際に一般ユーザーに渡ってからの感想が予測より違っている事もあるという。
そのためそういった市場の声に常に耳を傾けつつ、

”今後もお客様の真のニーズに合ったより良いタイヤを作っていきたい”

そんな言葉で講演を締めくくられた。

最後に、講演を聞き終えて感じた事を記しておく。

”タイヤ開発には難しく厳しい要素がたくさん絡み合っており、それらを両立させるのに多大な開発コストは必要不可欠”
”それも一般ユーザーの安全、安心、満足のため”
”であれば昨今の国産タイヤの価格は意外と適正なのかもしれない”
”アジアンタイヤが多く流通している昨今だが、そのほとんどはびっくりするほど安いものばかり”
”そういったタイヤは、果たしてブリジストンのような開発コストをどこまでかけているのだろうか?”

【取材 – 文】
編者(REVOLT-IS)

【取材協力 – 写真提供 – お問合せ】
公益社団法人「自動車技術会」