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海外チームの力 – 学生フォーミュラ2018

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今年も、物作りを学ぶ学生達が覇を競う季節がやってくる。

学生フォーミュラ
学生達が一定のレギュレーションに沿った小型レーシングマシンを作り競う大会なのだが、走りだけでなくデザイン面、そのレーシングマシンを販売するうえでのコスト管理、企業向けのプレゼンテーションといった能力も問われる、非常に複雑で様々な能力が要求される。

今年の開催期間は8月27日~31日。
場所はお馴染み、静岡県の小笠山総合運動公園

残り約3カ月に迫った中、参加する学校の多くはシェイクダウン走行を済ませているか、マシン制作が最終段階といった状況のようだ。
果たしてどのようなマシンを見る事になるのか?

そこで今回から不定期に分けて、去年気になったマシン、チームや競技の模様を振り返ってみたいと思う。

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まず今回は、オーストリアのU.A.S. Grazチームをピックアップ。

まるで、プロのモータースポーツチームのような雰囲気を醸し出していたこちらのチーム。
オーストリアのグラーツ市で自動車工学を学ぶスクール”Joanneum Racing Graz”からのエントリーだ。

デザインがとても洗練されており、細部の完成度も非常に高い。
そのせいか当時も多くのギャラリーが詰めかけ、他校の学生も熱心に話を聞きに来ていた。

車体の多くにカーボン素材をふんだんに使用しており、このマシンで使われているパーツの多くは独自に開発、製造したもの。

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これを見て往年のF1ファンなら、インディーを走ったシャパラル、F1でニキ・ラウダが勝ったブラバムBT46Bを思いだすだろう。
車体下面から強制的に空気を吸い出して負圧を作り、その効果で車体を地面に押し付けようというあのコンセプトだ。
ただこのマシンの場合、ファンとアンダートレイの配置を見る限り、違うコンセプトのようだ。
どちらかと言えば、ラジエターやインタークーラーに籠る熱を強制的に吸い出して後方へ流しているように見て取れる。
もちろん空力効果も狙っているだろうが、前者の割合が高いように感じる。

エンジンは2気筒ターボエンジン。
現地オーストリアのエンジンメーカーであるBPRロータックスから提供されたもので、ターボチャージャーはなんと独自開発。
ミッションも独自開発の3速シーケンシャルミッションで、ギアボックスはカーボン(CFRP)製。
シフトチェンジはオートマチックで、専用の電磁クラッチが動力を伝達する。

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サスペンションは、フォーミュラカーでよく用いられるプッシュロッド方式ではなくプルロッド方式を選択。
アーム類はカーボン製で独自に設計したトライアングルタイプ。
ダンパーはザックス製で、剥き出しで水平にレイアウトされている。
プルロッド方式だと重たいパーツを低い位置に配置できるメリットがあるが、上部アームに多大な負荷がかかるというデメリットもある。
そのせいかアーム自体、大型な印象を受ける。
ダンパーが剥き出しなのは空力デメリットもあるが、整備性は良さそうだ。
なによりダンパーユニットも容量が大きく見えるので、より足回りの動きを良くしようという考え方なのかもしれない。

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ホイールはワンピースの7J x 13インチでカーボン(CFRP)製。
競技車両でよく使われるマグネシウムホイールと違い、どの程度の剛性、軽量に仕上がっているのか大変興味がある。

そして履かせるタイヤは、ドイツ コンチネンタル社が提供する13インチのスリックタイヤ。
フージアタイヤとどの程度の性能差があるか気になるところ。

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シャシーはカーボンモノコック(CFRP)とスチール製パイプフレームのハイブリッド構造。
その車体下面。
フルフラットに配置されたアンダーフロアは、さながら往年のウイングカーのよう。
F3やスーパーフォーミュラのマシンと比べてみると、そのレベルの高さがわかるかもしれない。

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当時はこれが学生のレベルか?と疑念を抱いてしまったが、今にして考えると、実は海外ではこれが普通であり、これが海外の学生で作れるレベルなんだと思っている。

海外はモータースポーツ文化が日本より古くからあり、しかも根強い。
多くの企業の理解があり、モータースポーツへの支援や人材育成に積極的と聞く。
であれば、ここまでのレベルが出来る環境も普通にありそうに思えてくる。
カーボンパーツやターボチャージャーの独自開発、独自製造も、企業の積極的な支援あってこそなら納得がいく。

もしそうなら、日本も物作り大国と言われていた過去の栄光にばかりすがってはいれらない。
この学生フォーミュラへ支援している企業も単なる自社アピールだけに留めず、今後の未来を見据えてよりいっそうの支援が必要ではないだろうか?

【取材 –文 – 写真】
編者(REVOLT-IS

【取材協力 – 問い合わせ先】
全日本学生フォーミュラ