モータースポーツ開発最前線2019
2019年のモータースポーツシーズンが本格的にスタートを切った。
今年もレース、ラリー、ドリフトなど、様々なカテゴリーがファンを楽しませてくれる事になるだろう。
そんなモータースポーツを戦うマシン達。
よくわからない方から見れば、それらは一般乗用車とかけ離れており、自分達の生活とは関係ないものと見てしまいがちだ。
実際 編者も、市販車ベースで改造した競技車両ではなく、競技専用に一から設計、開発した車両の台頭がそんな傾向を強めているのではと思っていた。
そんな時、公益社団法人「自動車技術会」から、”モータースポーツ技術と文化”というシンポジウム開催の案内を受け取った。
シンポジウム、つまりモータースポーツで使われてきた技術や文化の研究発表会という。
表面的な技術情報は雑誌やネットで得られるが、それを第三者ではなく当事者から直接聴ける機会はそうあるものでない。
せっかくの機会なので、
自動車メーカーと関連部品メーカーがどのようにモータースポーツに取り組んでいるのか?
一般の乗用車開発と接点があるのか?
モータースポーツの現状はどのようなものか?
これらの視点を元に、シンポジウムを拝聴してみる事にした。
会場となったのは、東京工業大学の大岡山キャンパス。
そこのデジタル多目的ホールなどを貸切って行われた。
会場には多くの2輪・4輪メーカーや部品メーカーの開発関係者、著名なモータージャーナリストや報道関係者まで一同に詰めかけており、中には、今まさに市販車や今年の競技車両を開発、指揮してる方もちらほら。
チューニングカーファンにはお馴染みのM-TEC(無限)、STI、ニスモ、TRDの名前も見られた。
驚いたのが、一般にはモータースポーツとそれ程関わっていないと思われているマツダ、三菱自動車の関係者も参加していた事。
そしてカワサキ、ヤマハといった二輪メーカー、ブリジストン、ヨコハマといったタイヤメーカーなども名を連ねており、まさに車、バイクの開発に関わる全ての日本メーカーが介した事になる。
それもそのはず、本シンポジウムを企画したのは各メーカー選出の代表者達で構成されたモータースポーツ委員会。
そしてシンポジウム開会の挨拶を、トヨタ(株)GRモータースポーツ開発部部長の小島 正清氏。
司会は(株)スバルの嶋村 誠氏、(株)トヨタテクノクラフトの北林 正大氏、(株)本田技術研究所の小田 有子氏。
閉会の挨拶は横浜ゴム(株)の秋山 一郎氏という著名な方々が務め上げるラインナップ。
まさに日本メーカー総出のシンポジウムといった感じだ。
さて今回のシンポジウム。
プログラムの各コンテンツは以下の通りとなっていた。
【WTCC シビックの開発】
【アルティメットアイのレースタイヤ技術開発への活用】
【スーパーGT GT500グローバル化への展望~クラス1共通規則の採用~】
【初ポイント獲得までの軌跡~加工メーカーが世界グランプリで目指すもの~】
【スーパーバイク世界選手権4連覇の軌跡】
【スバルモータースポーツのシャシ開発】
【ルマン24時間 初制覇への道程】
詳細は次回に譲るとして全体的な感想から言ってみると、話の多くは、雑誌やネットで書かれている事とそれ程大差がない印象だ。
どちらかと言えば、第三者から伝えられていた不確定の情報を、直接聞くことで確かなものとする場といったところか。
そして疑問や気になる事があれば、メーカーや役職関係なく、その場で誰でも質疑応答に参加できる。
特にレースチーム運営の事、ライバルメーカーの開発指針や手法がかなり気になるようで、より突っ込んだ情報を得ようとしてか、競合他社からも盛んに質問が飛んでいた。
もちろん数値など全てさらけ出すわけにはいかず苦笑いで応じる場面もあったが、それでもただ隠すのではなく、考え方や概念的な事を回答してくださったのは、さすがシンポジウムといったところ。
メーカー間の垣根を超え、交流しつつ時に旧交も深めあいながら、会は和やかに進行していった。
さて今回はここまで。
次回以降で各コンテンツの簡単な内容紹介と、それぞれに対しての編者自身の感想をまとめていきたいと思う。
最後に、会期中いくつか印象に残るお言葉を頂いたので紹介しておく。
”モータースポーツと市場の車技術がかけ離れているように感じられるが、それでも車の基礎技術を磨くのはモータースポーツだと思っている”
”開発戦争はウェルカムですし、ありがたいと思っている”
メーカー側開発の重責を担う方からのお言葉なのだが、今でもモータースポーツを重要視し、大事に思っているかの表れと言っていいだろう。
誰もが厳しく不可能とも思える高い目標値を掲げ、極限の中でライバルと切磋琢磨しながら技術を磨きあげ、より高性能で品質の高い車を一般にお届けする。
一般の車開発を見据えたモータースポーツである事を、強く認識している事が感じとれた。
昨今の品質不良問題など、様々な事情、背景で思い通りにいかない事が多々あるようだが、こうした開発側の姿勢、思いが聞けただけでも少し安心ができた。
【取材 – 文】
編者(REVOLT-IS)
【取材協力 – 写真提供 – お問合せ】
公益社団法人「自動車技術会」