風洞で自動車の空力測定を実施 ~ 富士エアロパフォーマンスセンターレビュー
これまで報道してきた富士エアロパフォーマンスセンター。
どれだけ良い施設と伝えても、実際に試してみないとわからない事も多い。
そこで今回、予約申込開始に合わせてスケジュールを調整。
一般と同じ手順で申し込みを行い、どのように風洞実験が行われるか体感してみる事にした。
尚、本情報は2023年4月23日時点のものです。申込サイトや施設、環境など逐次アップデートされているため、一見厳しいかな?と思っても、事前に問い合わせされる事をお勧めする。
まず予約だが、今回は個人として申込を行う。
最初は公式サイトお問い合わせフォームへ。
ご利用方法やよくあるご質問をよく読んだうえで、希望日時など必要事項を入力して送信する。
その後、問題なければ予約申込登録を促すメールが届く。
本文には専用フォームのURLが記載されているので、自動車のほうをクリックしてページを開こう。
そうして必要事項を入力していくわけだが、その内容は大まかに個人情報と支払い方法、試験条件、試験する車両情報の4つとなる。
ここで2点ほど注意点。
まずは車両情報。
多くは車検証があれば入力できるが、チューニングカーなら自己管理している情報を反映する事になる。
任意項目もあるが、精度の高い試験を行いたいなら出来るだけ埋めたほうがいいだろう。
それから、試験する台数入力はあるものの、車両は1台ぶんの入力項目しか存在しない。
もし違う車種を複数同時に申し込むなら、事前の問い合わせフォームでその旨を伝えるのがいい。
これ以外でも、例えばオーナーズクラブでまとめて申し込むなら、やはり同じようにしたほうが確実だ。
次は支払い方法。
選択できるのは事前振込、請求書払い、クレジットカード、現金の4つ。
振込以外は全て当日決済となる。
これで申し込みは全て完了。
あとは待つばかりとなる。
さて試験当日。
事務所で受け付けを済ませてからは、声がかかるまで2階の控室で待機する。
20人前後座って寛げるスペースがあるので、大所帯の来訪でも問題なさそうだ。
今回試験するのは、編者の愛車S660とインテグラTypeR(DC5)の2台。
S660は無限ハードトップにディーラーオプションのトップキャリアとアクティブスポイラーが装着されてるが、今回はキャリアがスポイラー効果を阻害していないか検証する。
そしてインテグラは、Twitter名”m.t.のライフは零”さんの愛車。
個人で様々なエアロパーツを自作されているオーナーさんだが、今回は、ご自身で作られたリアディフューザーの装着、非装着の状態を試していく。
まずは搬入。
係員の指示で、天秤台へのスロープに載せていく。
写真の通り段差が大きめなので、そのままではレーシングカーや、着地する程のシャコタン車を載せるのは難しい。
ただセンター側も対策を考えるとの事なので、そのような車両を持ち込みたい方も安心して問い合わせてほしいそうだ。
スロープ移動自体、慣れていないと少し怖いかもしれない。
ただ、慎重になり過ぎるといつまでも段差を乗り越えられないので、すぐにブレーキを踏めるようにしつつ、係員の指示を信じて思い切り良く動くのが良さそうだ。
そうして天秤台に進入。
その後も4輪をセンサー中央に載せるため、OKが出るまで小刻みに微調整を行う。
これも指示通りに動けばいいだけなので、特に混乱する事はないだろう。
ちなみに車両を乗せ換える際は、都度、4輪にあるセンサーユニットを動かして、ホイールベースとトレッドを調整する。
ここまでの所要時間は、だいたい10分程度。
ただこれは一般車の場合なので、シャコタン車やレーシングカーは、もう少し時間がかかると見ている。
ちなみに料金が発生するのは、一回目の計測開始から全形態の計測完了までとなるので、搬入、搬出に時間がかかりそうな車両も心配はいらない。
その後は、ゼロ点合わせといった初期設定をオペレーター側で行えば準備完了となる。
ここでの作業時間は5分程度。
ただ車の載せ替えはもちろん、エアロや車高の変更、そして僅かでも車を動かしたり、何か積み下ろすだけでも狂ってやり直しとなるので、初期設定を行う前に車の準備は済ませておこう。
いよいよ計測開始へ
壁側の計測室に入り、様子を見守る事となる。
中では担当エンジニアが1名つき、風洞の制御とリアルタイムに出力される数値とグラフをモニタリングしていく。
計測は、1時間の予約につき計6回行われる。
まずは基準となる形態、つまりビフォーの状態で3回。
その後、エアロパーツ脱着やウイング角変更といったアフターへの調整を行い、初期設定後に再び3回計測する。
1回あたりの計測時間は2~3分ほど。
アフターへの調整は車やエアロによって変わってくるが、先にも書いた通りこの間も料金(※)に含まれるので、事前に段取りや手順を確認したほうがスムーズに進められる。
※お昼をはさむ場合、その時間は料金が発生しないとの事。
なお計測中、エンジニアへの話し掛けは基本的にNG。
何かあるなら、事前に了承を得ておくのがいいだろう。
そうして全ての計測を終えると、出力された結果に基づきエンジニアが細かい解説をしてくれる。
質問があるなら、この時まとめて行うのがいいかもしれない。
あと解説では細かなパラメータが登場するが、流体解析や物理がわからない、苦手な方は、先に形態ごとの傾向を教えてもらったほうがわかりやすいと思う。
ではS660の結果を見てみよう。
前提として、無限ハードトップとキャリアマウントは付けたままで、幌もあえて積んだまま。
そのうえで基準形態をアクティブスポイラーOFF。
次の形態を、アクティブスポイラーONとした。
キャリアマウントを外した状態でも良かったが、今回は、普段の乗る事の多い形態でアクティブスポイラーの効果を見たかったので、このようになった。
基準形態では、ダウンフォース配分が前よりな傾向。
想像するにミッドシップという特性上、重量配分がリア寄りなのを見越して、このように設計されたのかもしれない。
そしてアクティブスポイラーをONにすると、今度は前後のダウンフォース配分がほぼ均等に。
車全体のCd値も揚力も減少していた。
アクティブスポイラーは60~70kmで可動するので、恐らくこれで、高速走行時の直進安定性を高めているようだ。
今度はインテグラを。
こちらは”m.t.のライフは零”さんが当時の動画を作っているので、そちらをご覧頂きたい。
後付けパーツまで、自動車メーカーの確かな設計が感じとれた今回の計測結果。
数値化された事でかなりすっきりしたし、安心感が増したように思う。
過去乗ってきた車では、体感やなんとなくで様々なエアロパーツを脱着してきたが、中にはバランスを悪化させたものもあったのでは?と恐ろしくもある。
今後も機会があれば、ガーニーフラップやカナードなども試してみたいと思う。
計測終了後の搬出は、搬入同様、係員の指示に従いながら動かすだけ。
天秤台からスロープへ載せる時は確実に。
スロープを下る時はブレーキを踏みつつゆっくりと。
そしてスロープから降りるときは慎重に動かしつつ、マフラーやバンパー、スポイラーが干渉しないか見てもらおう。
そしてOKが出たらバック旋回のうえ、外の駐車場へ車を移動させればいい。
その後、事務所で支払い(事前振込を覗く)を終えたら全て終了となる。
計測結果は後日、PDFにしたレポートがメールで送られる。
数営業日で届くはずなので、楽しみに待っていよう。
ところでお気付きかと思うが、今回は、当メディアが応援する学生フォーミュラに参加する学生達を見学に招待した。
今回集まってくれたのは以下の大学チーム。
日本大学理工学部 円陣会
静岡大学 SUM(Shizuoka University Motors)
岐阜大学 GFR(Gifu Formula Racing)
静岡理工科大学 SIST Formula Project
工学院大学 KRT(Kogakuin Racing Team)
早稲田大学 Waseda Formula Project
学生フォーミュラを戦うマシンはプロのモータースポーツ同様、設計から開発、解析まで高い技術と知見が要求される。
それを学生達自身が学びながら取り組んでいるわけだが、今回の見学では、普段の学びと照らし合わせる、またとない機会となったようだ。
また特別にタフトやスモークを使った試験も体験でき、現役空力エンジニアや”m.t.のライフは零”さんとも活発に意見交換したりと、かなり刺激になった様子。
そんな学生達の声をまとめてみたので、以下に紹介する。
なぜ見学に来たいと思ったか?
- 大学の研究内容と関連する事もあるので、設備や装置などが気になったから。
- 最近話題になっていたから。
- エアロ担当なので興味があり、一度見たいと思った。
- マシンを実測するうえでの障壁を確認したかった。
- 空力の勉強に興味があったから。
- これまでCFDや動画など、パソコン上でしか見た事なかったから。
- テクニカルディレクターとして、エアロ担当が見学に行くなら内容を把握しておきたいと思ったから。
見るまでにどんな印象を持っていたか?
- アカデミックよりは実用性にかなり振っている印象を持った。
- 大学にも風洞はあるが、実車が測れる規模の風洞は自動車メーカーくらいでないと存在しないため、それが使用できるかもしれないと聞き心躍った、
- 計測や施設、設備そのもののイメージが湧かなかった。
- 風の挙動、空気の流れ、実測結果が正しいのか?CAD上と同じなのか?と思いを巡らせていた。
- 他施設で行われる風洞実験との差が気になっていた。
- 施設と設備が思っていたよりコンパクト。
- 地上高の低い学生フォーミュラ車両だと高さの低いエアロパーツの評価は難しそうだと感じたが、一方、解析モデルでは大幅に省略されている高位置の流れ場の評価が適切にできそうだと感じた。
実際に見て、体験してみてどう感じたか?
- 一般の方や、プライベーターが開発に利用するという用途であれば、十分なデータが取れると感じた。
- Cd値やCl 値の公称値との差もあまりなく、ムービングベルトがないとしても精度はかなり高いのではないかと感じた。
- DC5インテグラTypeR だとダウンフォースが発生する点から、インテグラがレーシングカーと言われる所以が感じられた。
- 計測の様子を見ながら、数値とかの説明をしてもらえて勉強になった。
- 風洞ファンに対して、整流装置が思っていたより小さくて驚いた。
- 設備がしっかりしている。
- 実際に見て感じることでしか得られない面白さがあった。
- タフトよりスモークのほうがより流れを感じられた。
- 精度の高い結果を求めるなら物足りないかもしれないが、まず計測するという段階が必要な学生フォーミュラや、自動車の開発序盤なら十分に感じた。
- 搬入から計測開始まで簡単、スムーズに行うことができて魅力的だった。
- 短時間でも、条件を変えた試験を何度か行える点が良い。
- 精度(再現性)の高さに非常に驚いた。
- 足が固い車では精度を確保しやすいとの事だったため、もし自分達のマシンを計測するなら、ダウンフォースによる地上高変化を無くす目的と合わせて、ダミーダンパー等でストロークを無くし、可能な限りエアロ班に協力して臨もうと思った。
今後利用してみたいと思うか?
- ぜひ利用したい(全チーム共通)
利用するなら何をやってみたいか?
- 3分力計測、タフトとスモーク試験。
- エアロパーツ有無でのダウンフォースの比較。
- エアロパーツを複数試して効果の違いを確認したい。
- コンピュータによる解析結果との相関を見たい。
- ダウンフォースとドラッグの実測。
- 地面と車輪を止めた解析と実測値の比較
- 翼の迎角や車両のスリップアングルによるダウンフォースとドラッグの変化の実測
この他にも様々な声を頂いたので、今回の取材に協力下さった富士エアロパフォーマンスセンター様へ共有し、今後のサービスの発展に役立ててもらえたらと考えている。
残念ながら今年のマシン開発には間に合わないが、学生フォーミュラチームの皆さんにはぜひ来年以降、活用を検討頂けたらと思う。
【取材/文】
編者(REVOLT-IS)
【取材協力/問い合わせ先】
富士エアロパフォーマンスセンター
(株)日本風洞製作所
(株)ニシヤマ
大和製衡(株)
m.t.のライフは零さん
円陣会
SUM(Shizuoka University Motors)
GFR(Gifu Formula Racing)
SIST Formula Project
KRT(Kogakuin Racing Team)
Waseda Formula Project