静岡県沼津市に誕生した待望の風洞試験施設「富士エアロパフォーマンスセンター」。
その開所式が2023年1月26日に執り行われた。
今回は施設の紹介と、開所式の模様をお送りする。
富士エアロパフォーマンスセンターは、「風洞の民主化」を掲げる(株)日本風洞製作所と(株)ニシヤマの2社が合弁で設立。
(株)日本風洞試験が管理、運営する。
そして施設の根幹を担うのが、(株)日本風洞製作所が開発した「Aero Optim」シリーズと、(株)日本風洞製作所、(株)ニシヤマ、大和製衡(株)の3社が共同で開発してきた「コンパクト風洞試験システム」となる。

富士エアロパフォーマンスセンターを管理、運営する(株)日本風洞試験の社屋。
建物自体、元々ヤマトホームコンビニエンスが営業所として使っていた施設を改装しているが、大型風洞施設にあるような機器や配管はどこにもなく、外壁にも手は加えられていない。
看板や内装を変えるだけで別業種でも使える状態であり、一定のスペースがあればどこでも設置できるというシステムのメリットが最大限に生かされている。

自動車用の風洞試験システム

自転車用の風洞試験システム

ドローン用の可倒式風洞システム
白を基調とした清潔感ある構内には自動車用と自転車用、そしてドローン用の3つのエリアに分けられており、それぞれ専用システムが一機ずつ配置されている。
エリア自体は仮設のパーテーションで区切られており、他へはドアtoドアで移動。
施設そのものがかなり広いため、エリア単位でもゆとり十分な構成となっている。
これなら、試験対象の移動や設置も余裕を持って行えそうだ。
あえて仮設のパーティションにしたのも、今後の風洞システムの進化に合わせて拡充しやすくするためとの事。
私見だが、試験対象に合わせて機器の配置を変更しやすくする意図も感じられた。
こうした柔軟な運用が出来るのも「Aero Optim」ならではのメリットと言えるだろう。
ちなみレーシングマシンなど、車高の低い車でも対応可能。
ただし自走で現地に行くなら、車道から構内へ侵入する際は僅かな登りで段差があるため、そこだけ気をつけたほうがいいかもしれない。
※Google Street Viewを参照。

奥側のプレハブ小屋がコントロールセンターの役割を果たす。
そして、自動車と自転車用のエリアにはコントロールセンターとなるプレハブ小屋が設置されており、この中でシステムの制御や、試験結果をリアルタイムでモニタリングしていく。
もちろんお客さんも、この中から風洞実験の様子を観察できる。
その際、専属のエンジニアが一名ついてくれるため、試験中の様子や得られた結果の解説、問題点や改善に向けたアドバイスまで受けられる。
例えば、チューニングカーやレースマシンのエアロセッティングにハマっている方には、解決への道筋が得られるだろう。
また流体解析や空力を学んでいる方、専門家、自動車やモータースポーツの現役エンジニアさんなら、濃密なディスカッションに発展する事もあるかもしれない。

(株)日本風洞製作所社長ローン氏の所有するのGT-R
さて、富士エアロパフォーマンスセンターの現状だが、開所式は行ったものの正式オープンはまだ先。
今回、利用料金の開示もあったが、こちらも検討中との事で参考までとなる。
【今後の予定】
2月中旬:WEBサイトと予約ページを公開、同時に先行予約の受付開始
3月中旬:正式オープン、一般利用の開始
【利用料金】(予定)
自動車・ドローン:個人、法人問わず1時間70,000円から
自転車:個人は1時間40,000円から、法人は1時間70,000円から
※消費税別、オプションメニューを除いた金額

開所式会場

開所にあたり、多くの花束や祝電も届けられた。
ここからは開所式の模様をお送りする。
当日は(株)日本風洞製作所、(株)ニシヤマ、大和製衡(株)の代表、関係者に加え、なんと沼津市長の頼重秀一氏まで出席されていた。
もちろん、こうした施設に市長自ら出向くというのは稀であり、それだけ沼津市のさらなる発展に寄与すると期待されているのだろう。

テープカット

Aero Optim、Slim Balance、コンパクト風洞試験システム、センター設立に関わった全て皆さんで記念撮影。
本写真、向かって左から沼津市長 賴重 秀一氏、QBキャピタルQBキャピタル合同会社代表 坂本 剛氏、(株)日本風洞製作所代表取締役社長 ローン・ジョシュア氏、(株)ニシヤマ 代表取締役社長 西山 正晃氏、大和製衡(株)取締役 岡村 剛敏氏。

ゲストを招いての施設説明の様子

プロロードレーサー 草場 啓吾選手による風洞デモンストレーションも行われた。
草場 啓吾選手のTwitter
ZYTECO SPORTS Co.,Ltd. CEO 吉田隼人氏のTwitter

レセプションでは、沼津駅前にある「まちのイタリアン ワイン酒場 コンレマーニ」の手による、沼津の食材を使ったイタリアンな軽食が振る舞われた。

来場者のお土産として手渡されたのは、沼津市内に2店舗を構えるケーキ屋「グランマ」の焼き菓子。

(株)ニシヤマ 代表取締役社長 西山正晃氏の御祝辞
「本日は富士エアロパフォーマンスセンターの開所、誠におめでとうございます。
弊社は数年前から、(株)日本風洞製作所様と縁あってお付き合いを始める事ができ、以後、営業活動の一翼を担ってまいりましたが、この度開所式に立ち会う事ができた事をとても誇りに思っております。
ご承知の通り、空気力学は工業用のみならず、スポーツやホビーなど広く活用出来る、意外と身近な学問です。
その可能性は大きく広がっているものと考えております。」
「そうした中、(株)日本風洞製作所様の技術の英知と関係各所のご尽力の元誕生したこの富士エアロパフォーマンスセンターは、空気力学の実験ニーズを持つユーザーにあまねく実験の機会を提供する、素晴らしい施設であると確信しております。」
「本日は(株)日本風洞製作所様だけでなく、(株)ニシヤマにとっても新たな船出となりますが、現在までに多くのお問い合わせを頂いております。
またオンライン上へのPR動画の制作など、今の時代に沿った広報活動にも着手しております。
今後、世界へ「Aero Optim」をはじめとする製品を広めるべく、(株)日本風洞製作所様と一枚岩となって邁進して行く所存です。」

QBキャピタル合同会社代表 坂本剛氏の御祝辞
「この度は富士エアロパフォーマンスセンターの開所、誠におめでとうございます。」
「(株)日本風洞製作所 代表のローン社長とは、彼が大学生の頃からの付き合いです。
彼は高校時代から独自に流体について研究開発しており、大学でも色々な先生に師事しながら続けていました。
その後に彼は、九州大学が毎年開催する学生のユニークなアイデアや研究プロジェクトの実現を助成するC&Cプログラムに応募。
当時私はその審査員を務めていたのですが、そこでローン社長のプレゼンを聴いた事が始まりでした。」
「ローン社長の研究内容は他より図抜けており、それを受けて大学側は助成支援を採択。
以後数年間、支給された助成金を使って研究、開発を続けていましたが、彼から特許の事、卒業後の事について相談を受け、彼の希望を汲み取ったうえで起業をアドバイス。
起業時に少額の出資と様々な支援をさせて頂きながら、今日に至ります。」
「これまで色々な事がありましたが、ローン社長のやりたい事がこうして実を結び、そして世界へ羽ばたこうとしている姿を見ると、とても感慨深いものがあります。」
「富士エアロパフォーマンスセンターはこれからがスタートです。
九州発、沼津発からグローバルな企業に成長していけるよう、皆様にはぜひこれからもご支援を頂けたらと思います。」

沼津市長 頼重 秀一氏の一言コメント
「この度は本当におめでとうございます。」
「風洞の民主化という全国、世界にあまり例のない風洞試験センターを、ここ沼津市に開設して下さった事をとてもありがたく思っており、関係者の皆様には感謝申し上げます。」
「沼津市には様々な企業がありますが、そうした企業間の提携で新しい産業が生まれる事も期待したいですね。
また沼津市はサイクリングに力を入れておりますので、スポーツという面でも色々と連携させて頂きながら、様々な情報を発信していけたらと考えております。」

(株)日本風洞製作所 代表取締役社長 ローン・ジョシュア氏の式辞
「富士エアロパフォーマンスセンターは、弊社とその関係者の夢である「風洞の民主化」を体現したものです。
個人、法人問わず誰でも気軽に風洞を利用してもらうだけでなく、弊社製品「Aero Optim」シリーズのショールームとしても機能し、ここから世界に向けて発信展開していきます。」
「まず自動車用風洞ですが、EVシフトで空力が益々重要視される昨今、風洞施設が予約待ちで利用しにくいジレンマを抱える自動車メーカーのご利用はもちろん、関連部品メーカー、アフターパーツメーカーの利用、「Aero Optim」製品の導入検討のためのトライアルを想定しております。」
「次に自転車用風洞ですが、自転車メーカーはもちろんの事、これまで海外の風洞施設を利用するしかなかった自転車競技のプロ、セミプロ、アマチュアの選手にフォームの解析などで利用してもらう事を想定しております。」
「最期にドローン用風洞ですが、想定される様々な環境下での運用、法規に対応すべく、試験装置の拡充や安全なドローン開発に向けた設計、審査、検査の手法を積極的に開発していきます。」
「今後とも、風洞を必要とする多くの皆様に貢献できるように、全力で取り組んでまいります。」
※式辞、御祝辞、コメントとも、お話を一部省略、簡略化してまとめております。ここには載せきれない面白いエピソードもありましたので、それらはSNSなどで公開していきます。
【取材・文】
編者(REVOLT-IS)
【取材協力】
株式会社ニシヤマ
株式会社日本風洞製作所
大和製衡株式会社