日本のものづくりでモータースポーツ技術を磨く – 人とくるまのテクノロジー展2022
自動車レース界の技術と産業の活性化、モータースポーツの発展振興を目的に活動するJMIA(日本自動車レース工業会)。
近年はEVやサスティナビリティ向けの部品に、レース専用エンジンやECU、熱交換器といった展示がなされており、時代に合わせて取り組む姿勢が感じられる。
果たして今回の出展はどうか?
今回ブース出展した会員企業7社の内容を紹介する。
まずは自社開発のフォーミュラ・リージョナルマシンを展示した株式会社童夢。
これまで、スイスBcomp社の天然繊維ファブリックを使った独自のプリプレグ開発を行ってきたが、この度、ついにDNAP(ディーナップ、DOME NATURAL ADVANCED PREPREGの略)の名で製品化に至った。
そのサンプルとして、展示のマシンにはDNAP製カウルが装着されている(色違いの部分)。
既に実戦で試されたとの事で、強度や熱害も問題なかったとの事。
モータースポーツという環境下で高い性能を示したことは、素材選定で一つの指標となりえるだろう。
また、本素材は電波遮蔽を防ぐ効果もあるため、アイディア次第で幅広い応用が期待出来そうだ。
次は、自動車部品製造の総合企業であるタマチ工業株式会社。
写真は、ワンメイクカテゴリー「インタープロト」マシン向けに開発された水冷タイプの熱交換器。
これまでに2度のテストを行い、高い評価が得られている。
「インタープロト」用としてはカテゴリーのスタート当時は水冷タイプだったものの、冷却不足で空冷タイプを後付けした経緯がある。
そこで、水冷タイプのみで充分な冷却能力を得られる熱交換器の開発に着手したとの事。
その開発過程では、自社の金属3Dプリンター技術も活用されている。
これまでにレーシングカーや自動車開発に向けたカーボンコンポジット製品の開発、製造を行ってきたが、現在は、多方面に活用可能な製品開発に取り組んでいる。
社内にはオートクレーブなど一貫製造可能な設備を備え、敏腕技術者達の手で様々な製品が送り出されている。
その他、顧客の要望によっては、タイの生産拠点やグループ企業のムーンクラフト株式会社とも連携していくといった、柔軟な対応も可能な環境が整えられている。
一般で知られている製品事例としては、スーパーGTや東海大学ソーラーカーチャレンジ、そしてあの下町ボブスレーの開発がある。
他にもバイク用カウルやヘルメット、エンジンやエアロパーツ、建設機器や旅行ケースなどあり、その事業は多岐に渡っている。
知らないうちに、東レ・カーボンマジック製品に触れている事もあるかもしれない。
こちらではEV向けの2速トランスミッションが展示されていた。
ドッグクラッチの左右にハイギア、ローギアを配置する構造となっており、機械的に左右へ制御する事で、シームレスな切替とスムーズなコースト/ドライブ制御を可能とした。
クラッチ内のハブ、スリーブも独自構造で、しっかりした嚙み合わせとスムーズな解放という相反する要素を上手くバランスさせている。
機械的でシンプルな構造が特徴のこのミッション。
昨今でもボッシュなど、大手企業でもEV用ミッションの開発が進められているが、そうした競合他社とどこまで差別化できるか注目したい。
次はTRDこと株式会社トヨタカスタマイジング&ディベロップメント。
昨年同様、カスタマー向けとした競技用エンジンTRD-8ARを展示してきた。
これは、トヨタのクラウンやレクサス・RCなどに搭載する2リッターターボエンジン(8AR-FTS)をベースに、横置きや縦置き、FF、FR、4WD、ドライサンプやウェットサンプといった、多種多様な仕様へ最適化して載せる事を前提に開発されている。
価格も抑えられているが、それでもパワーは315psオーバー、トルクは52.5kg・mと十分なパフォーマンスを発揮する。
現在までにスーパー耐久やタイのGTシリーズ、ラリー、アメリカのオフロードレースへの供給実績があり、中には優勝も経験していたりと、カスタマーから好評を得ているとの事。
車体はあれどエンジンに悩んでいる方や、キットカーによるレース参戦を目指す方には福音となるだろう。
あくまで競技用であり公道では使えないが、ナンバーを切った車両をお持ちなら使えるかもしれない。
次はブリッド株式会社。
今回は、昨年フルモデルチェンジを果たしたセミバケットシートのGIAS3(ガイアススリー)を展示。
セミバケならではのリクライニング機構はワンタッチ調整も可能。
それでいてモノコックシェルは、前モデルと比較して引っ張り強度200%、全体強度40%、バックレスト強度が15%と大幅に向上。
もはやフルバケに匹敵するほどとなっており、高G化でもドライバーをがっちりサポートしてくれる。
さらに6点式シートベルトの装着にも対応すべく、股下にベルトホールが増設されている。
ナンバー付車両によるレースも普及しつつあるが、このGIAS3なら移動中もサーキットも不満なく使えるだろう。
最期はアール&スポーツディベロップメント株式会社。
こちらでは主に自動車向け制御システムの開発を行っており、近年ではレースマシン用ECUで実績がある。
自動車レース用ではプログラムはもちろんの事、高負荷、高温下にさらされても安定した制御が行える、高い信頼性が必要となってくる。
写真のECUはそうした要求に応えてきたもので、フォーミュラカーなどへの装着実績があるという。
その他、大容量ポータブル電源や電気3輪車の開発にも取り組んでおり、ジャンルに捕らわれない事業展開にも積極的な姿勢を見せていた。
【取材・文】
編者(REVOLT-IS)
【取材協力】
JMIA(日本自動車レース工業会)