パワーウエイトレシオ3.5に迫るAE86トレノ
新型コロナ過で開催が危ぶまれていたAE86、トヨタ86・スバルBRZオーナーのためのイベント「86 Style」が様々な制限を課されながらも、今年もお馴染み富士スピードウェイでなんとか開催された。
今回はミーティングスペースだけでなく、富士スピードウェイ・ショートコースで希望参加者によるサーキットランも出来るとあって、車と腕に覚えのある方も多く集まっていた。
その多くはトヨタ86だったのだが、その中で一台だけ異彩を放っていたのが今回紹介するこちらのAE86スプリンタートレノ。
見るからにサーキット走行を意識した外観にとても興味をそそられたため、思い切ってお話を伺ってみる事にした。
このAE86は、オーナーさんがサーキット走行に絞って楽しめるよう制作された車で、組み上げ、セッティング、メンテナンスまでプライベートで手掛けているサーキット専用車。
毎年、岡山国際サーキットでのAE86フェスティバル、富士スピードウェイでの86 Style、筑波サーキットでのハチロク祭といった各イベントへ定期的に参加して楽しんでいるらしく、今年も、それらAE86イベントに合わせてこの車を制作。
ただ、新型コロナの感染拡大の影響でイベントは軒並み中止や延期に。
やきもきしていた所、この11月に86Style 2020が開催されるというアナウンスを聞きつけ、ナラシ走行も兼ねてエントリーしたという。
ここで状態のチェックや問題点を洗い出し、筑波サーキットで12月に開催されるハチロク祭 2020に照準を合わせて準備したいと語ってくれた。
簡単にこの車の仕様を見ていきたい。
カーボンパネルでまとめらたボディ。
なんと、いくつかの部品はオーナーさん自身が設計して制作を依頼したものもある。
N2マシンのように張り出したブリスターフェンダーと、そこに綺麗に収まるタイヤ・ホイールが迫力十分だ。
熱対策の施されたボンネットがとても軽く、ペラペラで薄い印象を受けたが、サーキット専用という事で取付をしっかり行っていれば問題はないとの事。
チューニングされた4AGが収まるエンジンルームも補強がしっかりなされており、各補器類もとても綺麗に配置されている。
ちなみに車体重量は約700kg、エンジンパワーは200馬力ほどで、そこから導き出されるパワーウェイトレシオはなんと約3.5kg/ps。
一般的に、この数値が小さいほど加速力が良いと言われているが、ここで他の国産スポーツカーのパワーウェイトレシオと比較してみよう。
トヨタ・GRスープラ RZ:約3.95kg/ps。
日産・GT-R(R35)NISMO:約2.90kg/ps
マツダ・RX-7(FD3S)スピリットR:約4.57kg/ps
三菱・ランサーエボリューションX ファイナルエディション:約4.88kg/ps
スバル・WRX STI:約4.90kg/ps
これらは車体や構造、生まれた年代も違うだけに正しい比較がしづらいが、それでも、このAE86のパフォーマンスの高さが伺いしれるはず。
その車体を支える足回りには、クスコに制作を依頼したワンオフ車高調を装着。
別タンクの配置も独特なそれは、セッティングもかなり拘ってオーダーされたという。
ダンパーのストラットタワー部に施された補強からみても、足回りはしっかり機能してくれそうだ。
室内を見ても、ロールケージの配置や当て板、溶接に至るまでしっかりとした補強がなされている。
街乗りや公道走行に必要なものは全て廃し、ダッシュパネルやインパネ周りはカーボンの板に必要最低限なメーター類を埋め込むだけという割り切りよう。
いかにもサーキット専用と言えるインテリアだ。
カーボン製のバケットシートもかなり軽そう。
ペダル類も、より実践的なオルガン式へと変更されている。
編者的に注目だったのが、トランスミッションにフランスのサデフ社製シーケンシャルミッションが装着されている点。
知人からサデフを勧められたらしく、モータースポーツでの実績もあって導入を決意。
価格面や機能面、アフターサポートの面でも申し分なく、大変満足されているという。
ちなみにサデフとは、フォーミュラやWRC、WTCR、フォーミュラドリフトといったモータースポーツカテゴリへの供給実績を持つ自動車部品メーカーで、日本国内でもいくつかの代理店が同社の製品を扱っている。
リリースする製品の中には、こちらの横置きエンジン用シーケンシャルトランスミッションや1000Nm対応のFR用シーケンシャルミッション などがあり、タイムアタックやドリフトといった競技で上位を目指す方なら気になるところだろう。
フランスから日本への部品供給体制もしっかり整備されてそうで、サポートの面も安心だ。
それもあってか近年では、いくつかのプライベーターでも徐々に導入を進めている様子。
残念ながら時間の関係で走行を見る事が叶わなかったが、12月13日(日)に筑波サーキットで開催されるハチロク祭り2020での健闘に期待したいところ。
さて、サーキット専用車と言えば維持、整備、コストの面で一般的に敷居を高く持たれやすいが、保管や整備の出来る場所や輸送の足が確保できるなら、意外とお金がかからないという話がある。
実際、若い方でもイベント専用と街乗り車の2台を保有している割合が高く、一台はナンバーを切っている方もいるほど。
確かに、ナンバーを切っているため車検などにかかるコストがいらないのと、年間の走行距離も年にサーキットを数回走る程度。
タイヤもラジアルタイヤなら、編摩耗させない限りはそのくらいの走行距離で寿命と見ていいだろう。
腕に覚えのある方なら、整備やチューニングも自分の手で行えば安上がりだ。
なにより公道走行をするうえで定められた法規や保安基準、世間の目に縛られず、理想とする目標に向けて、愛車を好きなように納得いくまで弄る事ができる。
足車が必要なら、特に拘りがなければ維持費が安く経済性の高い車を選べば良いはずで、トータルで考えても意外と高くはならなそうだ。
これからサーキット走行を納得のいく車で楽しんでいきたいなら、こうしたカーライフの選択を検討してみるのも良いかもしれない。
【取材・文・写真】
編者(REVOLT-IS)
【オーナー】
野毛山自動車Yotubeチャンネル