GAZOO Racing活動とモリゾウが知ったお客様目線
新型コロナ(COVID-19)による世界的な感染発生により、仕事や生活の様々なところで打撃を受けている今日。
緊急事態宣言の発令で自動車生産が休止になったり、モータースポーツも延期や中止に追い込まれるなど深刻な影響が続いていた。
しかしその宣言も5月25日で解除され、新規の感染被害も収まりつつあった事もあり、車業界も少しずつ前へ進み始めている。
モータースポーツも、F1が7月5日にオーストリアでの開幕を宣言。
他のカテゴリーでも無観客試合などで開催に向けて調整が進められており、我々ファンにとっても明るいニュースが出始めてきた。
ここで、今年の東京オートサロン2020での話題をピックアップ。
トヨタガズーレーシングブースで発表された謎のレーシングチーム”ルーキーレーシング”、スーパー耐久レース2020に参戦するGRスープラとGRヤリスの2台、トヨタの取り組みについて振り返ってみる。
豊田章男社長ことモリゾウ氏の、これまでの活動や気付きから生まれたという”ルーキーレーシング”とはいったい?
”ルーキーレーシング”とは、レーシングドライバーの片岡龍也選手が監督のレーシングチーム”ティーズコンセプト”が母体。
”ティーズコンセプト”は、自動車部品メーカー”小倉クラッチ”のサポートを受けてスーパー耐久レースに参戦しているチーム。
そこにトヨタの次世代マスタードライバー(トヨタのテストドライバーの頂点を担う役割)の育成を目的に、数年前からモリゾウ氏の息子である豊田大輔氏が加入しており、腕を磨き続けている。
この事はモリゾウ氏の預かり知らぬところであったが、ある日、息子の活動がどのようなものなのか見てみよう、どうせなら同じ目線で体験してみようという事になり、その年のスーパー耐久レース最終戦に”ティーズコンセプト”の新たな選手としてスポット参戦を決意。
一応、スーパー耐久レースでは新人のレーシングドライバーという事で、モリゾウ氏自らの提案で”ルーキーレーシング”の名前でエントリーする事に。
これは、これまで息子が世話になった御礼としてポケットマネーで新たにマシンを提供した事、トヨタ本社の活動ではなく、あくまで個人で参戦するという背景もあったようだ。
それが”ルーキーレーシング”誕生の起源。
とは言え、2020年の体制を見るかぎり、同じ名前でも目指す方向、目的がかなり変わっている。
以前からこんな事があったという。
トヨタ支援の元、現在、様々なモータースポーツでトヨタ86が使われているが、プライベーターが使うトヨタ86のレースでは、市販車をレース用に一部改造しただけの車両が使用されている。
街乗りとは違い多くの負荷がかかるモータースポーツでは、車自体に想定外の不具合が発生する事もある。
だがそれを伝えても、現場担当からは、”街乗りではまず起こり得ない不具合ですから”と、それについての対応を請け負わなかったという。
編者も数年前から同様の話を聞いていたが、対応してくれないからと泣く泣くレースを諦めたり、チーム側で走らせ方で妥協をしようと涙ぐましい努力を強いられていた。
車体を改造すればなんとかなる場合もあるが、トヨタ86レースの多くでは、大幅な改造が認められていない。
市販車の性能そのもので勝負するしかないのだ。
この状況をスーパー耐久レースでモリゾウ氏は知ったようで、トヨタとしてモータースポーツでもトヨタ86を使ってほしいと言っているのに、対応を請け負わないとはありえないんじゃないか?と思い改革に着手。
そしてプライベーターのレースこそ市販車の開発、テストに最適なんじゃないかと考え、スーパー耐久レースへ”ルーキーレーシング”として参戦する事を決意した。
チームの主な陣容として、モリゾウ氏をはじめ、トヨタの豊田大輔氏、矢吹久氏、北川文雄氏、チーム監督の片岡龍也選手、レーシングドライバーの蒲生尚弥選手、井口卓人選手、佐々木雅弘選手、小倉クラッチ社長の小倉康宏氏が紹介された。
今回の”ルーキーレーシング”は、あくまでイチプライベーターに参戦を依頼する点がポイントで、プライベーター目線で様々な不具合、トラブルに遭遇した場合、それをトヨタにあげてもらう事でタイムリーに対応していき、即時に市販車開発にフィードバックする環境を作りあげようというもの。
この環境作りには、レーシングドライバーやプライベーターチームと開発エンジニアを仲介する人材が必要不可欠で、それもレーシングドライバーやプライベーターと同じ気持ちになれ、それでいて最先端の車開発を担う者でなければならない。
ここで先のマスタードライバー育成にも繋がってくる。
レーシングドライバーが市販車開発に携わることはあるが、ただ開発部署全員がレーシングドライバーに対する理解があるわけではない。
そこでトヨタのテストドライバーがプライベーターと一緒になってレースを戦い、時に一緒に手を汚していきながらレースに対する姿勢や走らせる車に対して理解を深めていくことで、実際の開発テストの場で、ユーザー目線でより適切な情報提供が出来るようになるのでは?と期待されている。
日本の自動車メーカーに限って言えば、過去に市販車PRの一環で独自にチームを組んでの参戦事例はあったが、レースはあくまでプライベーターに任せ、そこで発生した様々な事象を市販車開発に取り込もうという”ルーキーレーシング”は、これまでにない画期的なニュースと言える。
将来的にはプライベーターに、レース参戦車両としてGRヤリスやGRスープラを安心して選択してもらう考えもあるようで、ワークスとしての活動とは別に、より多くの人に対してのモータースポーツ支援を強化していくようだ。
本来ならこの時期、スーパー耐久シリーズも数戦消化していたはずだが、ご承知のように新型コロナ(COVID-19)の影響で延期、中止が相次ぎ、市販車開発、生産でも大きなダメージを被る事態となっている。
GRヤリスの市販車販売に向けて佳境を迎えていたはずで、今回の事態は本当に残念でならない。
東京オートサロンでは冗談を交えつつ、多くの人に車を楽しんでもらう様々な提言をしてくれたモリゾウ氏も、トヨタグループの全責任を担う豊田章男社長として、前代未聞の苦難に立ち向かっている。
その心中は計り知れない。
こういう状況だからこそ、ファンにはぜひモリゾウ氏を応援して欲しいと思う。
賛否両論はあるが、この方の尽力で多くの環境が良い方向に変わり始めているのは事実。
我々と同じ車好き、モータースポーツ好きの気持ちがわかるこの方の存在は、もはや日本の車社会に無くてはならないものとなっている。
もしモリゾウ氏の名前がレースのエントリーに記載されていたら、精一杯の声援を送ってほしい。
【取材 – 文 – 写真】
編者(REVOLT-IS)
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TOYOTA GAZOO RACING
TOYOTA
東京オートサロン事務局