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黎明期のFIA Drifting Cup 2019

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FIAの冠を得たドリフト世界一決定戦「FIA INTERCONTINENTAL DRIFTING CUP」も今年で早くも三回目を迎えた。
今回はフォーミュラドリフトジャパンからもトップランカーがエントリーしており、舞台となった筑波サーキットで各国の強豪ドライバーがどう戦っていくか、非常に楽しみな大会となった
その模様をお送りしていく。

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参加選手達の記念撮影
日本を始め、ロシア、イギリス、ニュージーランド、スイス、タイ、中国、マレーシア、台湾、クウェート、香港、イタリア、韓国、モザンピーク、フィリピン、シンガポール、南アフリカと17カ国からのエントリーを集めた

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国際大会では、こちらのBMW M3のようなマシンも見ることができる。

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エキシビジョンとしてタイムアタックイベントも行われた

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グリッドに並べられたマシン達

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ピット上の観客スペース

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一般観客も入れるグリッドウォークでは、憧れの選手やマシンとの記念撮影やサイン会なども行われた

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出走前、選手達も和やかに談笑中

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下妻市立千代川中学校吹奏楽部の生徒達による演奏

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単走チャンピオンのチャールズ選手

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MCとリポーターを務めた方々
向かって右から、D1GP実況でもお馴染みの鈴木学、レーシングドライバー織戸学、モデルの水村リア

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主催、来賓、ゲストの方々
向かって右から鈴木亜久里(ARTA)
田中有光(FISCOクラブ会長)
藤井一裕(JAF会長)
菊池博(下妻市長)
土屋圭市(大会名誉顧問)

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土屋圭市の開会宣言で追走トーナメントが始まった

【大会結果】

既報の通りソロラン(単走)を日産シルビア(S14)を駆る香港のチャールズ カキ エン(Charles Ka Ki Ng)選手が制し、バトルラン(追走)を日産シルビア(S15)を駆るロシアのゲオルギィ”ゴーチャ”チフチャン(Georgy Chivchyan)選手が2連覇を達成した。

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2連覇を達成したロシアのゲオルギィ “ゴーチャ” チフチャン選手と日産シルビア

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単走1位、決勝5位のチャールズ・カキ・エン選手(日産シルビア)

【運も味方につけたゴーチャ選手】

選手と運営の混乱、マシントラブルによる敗退も多く発生した本大会。
単走チャンピオンのチャールズ選手もステアリングトラブルが発生、修理が間に合わずリタイヤとなったが、ゴーチャ選手は単走3位と好位置につける安定感で追走トーナメントへ進出。
クラッチに不安はあったものの大きな問題にならず、力強い走りで決勝までコマを進めた。

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互角の戦いを展開した1位のゲオルギィ チフチャン選手(日産シルビア)と 4位の松井 有紀夫選手(マツダRX-7)

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ゴーチャ選手を応援する熱狂的なロシア応援団

迎えた決勝戦。
出走直前になんとスロットルトラブルが発生。
一時騒然となったが、メカニックの尽力で無事修理が完了した。

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2連覇を達成したロシアのゴーチャ選手と日産シルビア。優勝を決めた直後にクラッチが音をあげストップした。

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3位のアンドリュー グレイ選手(トヨタマーク2)vs 4位の松井 有紀夫選手(マツダRX-7)

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10位のマッドマイク選手(マツダRX-7)vs 2位の藤野 秀之選手(日産180SX)

【フォーミュラドリフトジャパン勢の実力】

注目のフォーミュラドリフトジャパン勢を見ていこう。
技の冴えを随所で見せる2019チャンピオンのアンドリュー・グレイ選手。
派手なパフォーマンスでファンの多いマイケル”マッドマイク”ウィデット選手。

両選手の命運は大きく分かれた。
アンドリュー・グレイ選手はガスケット抜けの症状に悩まされながらも勝ち上がったものの、藤野 秀之選手に敗れて惜しくも3位。
マッドマイク選手はいくつか減点はあったものの攻めの走りを見せてくれたが、マシントラブルによるスピンでまさかの初戦敗退。
今回はツキがなかった。

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11位の川畑真人選手(トヨタスープラ)

【日本勢の明暗】

次に我らが日本代表選手を見ていこう。
初代チャンピオンの川畑 真人選手。
今季は話題の新型トヨタ・スープラにマシンチェンジ。
その心臓部には、先ごろ東京モーターショーで話題となった3UZエンジンが搭載されていた。

だが今回は不調で、馬力が半分まで出ていない等の話もあり。
そのせいか単走では、去年ほどの迫力が見られなかった。
それでも上手くまとめて単走7位通過。
追走トーナメントへ進出したものの、数度の赤旗、運営のシグナル変更ミスに振り回されてコンディションを乱されたか、仕切り直しの再走でまさかのコースアウト。
不本意な初戦敗退となってしまった。

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16位の小橋 正典選手(日産シルビア)vs 17位のデイチャポン トオインチャロン選手(トヨタ86)

2019年D1GPランキング5位の小橋 正典選手。
単走では好走を見せたものの、途中ボンネット上から火が出るアクシデントに遭遇。
一時そのままリタイヤかと思われたが、迅速な消化で燃料ラインの一部が燃えたのみに留まりエンジンは無傷。
何事もなかったかのように敗者復活戦へ挑む事ができた。

そんな幸運も味方つけたか、敗者復活戦では見事に勝利。
翌日の追走トーナメントへ進むこととなった。

だがそれもここまで。
迎えた初戦ではクラッチトラブルが発生。
修理を試みたものの制限時間内に間に合わず、無念のリタイヤとなった。

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9位の横井 昌志選手(日産シルビア)vs 8位のチャナッポン ケードピアム選手(日産180SX)

2018、2019年の2年連続D1GPチャンピオンの横井 昌志選手。
今ノリにのっているD1選手だが、単走は5位追加。
優勝候補に上げられていたが、追走初戦でまさかの敗退。
全体的に優勢に思えたが、審判団は1本目のわずかなミスを見逃さなかった。
まさかの敗退に、会場も重い空気に包まれた。

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2位の藤野 秀之選手(日産180SX) vs 3位のアンドリュー グレイ選手(トヨタマーク2)

2017年D1GPチャンピオンの藤野 秀之選手。
単走は8位追加で順当に追走トーナメントに進む事が出来たが、その初戦前にテンションロッド破損が発生。
出走直前まで修理作業が入るという波乱の展開を迎えた。

以降は力強い走りで決勝戦までコマを進めたが、追走二本目のスタート直後にデフギア破損でスローダウン。
世界ランク2位が確定する事となった。

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互角の戦いを展開した4位の松井 有紀夫選手(マツダRX-7) vs 1位のゲオルギィ チフチャン選手(日産シルビア)

2019年D1GPランキング2位の松井 有紀夫選手。
単走はなんと2位通過。
事前にマシンがとても調子いいと語っていたが、その言葉が示す結果を出してくれた。

追走トーナメントでは有力選手が初戦で次々と敗れていくなか、先の藤野選手ともども順調に勝ち上がりベスト4へ進出。
そこで世界チャンピオンのゴーチャ選手と対決。
サドンデスに突入するほどの名勝負を繰り広げたが、残念ながらわずかな差で敗退した。

その後の3位決定戦。
相手は名手アンドリュー・グレイ選手だったが、こちらも僅差で敗退となってしまった。
それでも世界ランク4位が確定。
本人にとっては過去最高の成績を上げた事になる。
世界に轟かしたこの走りは、来季へプラスとなった事だろう。

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単走の上位3選手
中央が1位のチャールズ・カキ・エン選手
向かって左が2位の松井 有紀夫選手
向かって右が3位のゲオルギィ チフチャン選手

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追走トーナメント上位3選手
中央が1位のゲオルギィ チフチャン選手
向かって左が2位の藤野 秀之選手
向かって右が3位のアンドリュー グレイ選手

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ここからはイベントを総括してみよう。

サーキットレースやラリーとは違い、ドリフトは競技としての歴史は浅くその多くが前例のない事ばかり。
それもあってか「FIA INTERCONTINENTAL DRIFTING CUP」では毎年、様々な見直しを図りながら模索を続けている。

そうして迎えた第3回大会。
ヒューマンジャッジを重視したり、イベント進行も他で好評だったスタイルを取り入れてきたが、果たしてその成果はどうだったか?

残念ながら、今回に限って言えば悪い方向に向かってしまったように思える。
目立ったところは以下の通り。

・審査基準のわかりにくさやかかる時間の長さ。
・走行インターバルが空きすぎ。
・MCと国際審判団、運営スタッフとの情報共有や理解不足。
・ルールや大会進行を誤解していた選手が見受けられた。
・競技進行の大幅遅延で、いくつかの対戦が翌日にまわされる事態に。

いくつか情報を集めてみたところ、そこには言語解釈による認識の違いが影響していたように思える。

海外の言葉を学んだ方ならおわかりだろうが、日本語は曖昧で、一つの単語や言い回しだけでも様々な意味に取られてしまう。
それを英語やロシア語、広東語などに翻訳する際、翻訳元がどういう意図で使われたかを理解する必要がある。

今回の大会で言えば、海外選手やチームスタッフ、審判団や関係者に対し、審査基準や大会進行についての理解がどこまで浸透できていたかがポイントとなってくる。
特にヒューマンジャッジを重視するなら、この点を疎かにすると揉め事に発展してしまう。
実際、ある有力チームからは審査に関する不満が漏れ伝わってきた。

日本発祥のドリフトとは言え、今や各国で独自の審査基準が育ってきている。
そのため”世界一を決める審査はこれです”と言い切れる、明確な基準の策定が強く求められる。

そしてマシントラブルが多かったのも本大会を印象付けていた。
追走トーナメントに進出した選手の、実に三分の一に何らかのマシントラブルが発生。
序盤は競り合う事なく敗退するケースばかりが目立っていた。
シーズン終盤によるマシンストレスがピークに達したか?
グリップが格段に上がるサーキットコースだっただけに、駆動系に負荷が集中したようにも思われた。
本戦では1回5分間だけ修理時間が認められているが、それでも間に合わずに涙を飲んだ選手もいた。
マシン同士の競り合いを心から楽しみにしている選手や観客も多いだけに、来期はこうしたトラブルが減る事を強く願いたい。

【取材 – 文 – 写真】
編者(REVOLT-IS

【取材協力 – 問い合わせ】
FIAインターコンチネンタルドリフティングカップ(FIA Intercontinental Drifting Cup)事務局