学生達だけで目指すモンテカルロ・ラリーへの道
WRC世界ラリー選手権ファンならば、ラリー・モンテカルロと聞くと胸を熱くさせるに違いない。
モンテカルロとは、フランスと境界を隔てる世界で2番目に小さい都市国家”モナコ公国”最大の都市。
そこでは、公国内の自動車イベントを統括するモナコ自動車クラブ主導の元、F1モナコGPや、例年1月にWRC開幕戦ラリー・モンテカルロを開催している。
その歴史と伝統から、モナコで勝つ事に特別な意味があるとまで言わしめるほど。
そんなモナコ – モンテカルロでのWRC開幕戦を終えた数週間後、ここでもう一つ伝統の自動車イベントが開催される。
1955年から1980年の間にラリー・モンテカルロに参戦した車両のみが出場できる本イベント。
毎年、世界中の多くの自動車愛好家が自慢の愛車を持ち込んで参戦している。
そこは”走るラリー博物館”とまで言われており、WRC開幕戦に負けず劣らず、その車その走りを一目見ようと、やはり世界中から多くの観客が訪れるという。
そんな伝統と格式あるイベントに、日本から挑戦する若者達がいる。
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海外ヒストリックカーラリー参戦プロジェクトの名の元に結成された、東京大学とホンダテクニカルカレッジ関東の学生達による共同チーム名である。
そのコンセプトは、学校の授業の一環として、車両の修理や整備、レストアはもちろんの事、チーム運営から広報活動、外部との折衝、資金調達に至るまで、ラリー参戦に関わる全ての事を学生達でやらせようというもの。
一見すると無茶ぶりもいいところだが、実はこのプロジェクト、今年で9年目となる豊富な実績を誇っている。
学生達の手による海外ヒストリックカーラリー参戦プロジェクト。
現在の日本の実情を考えると、とても興味深いプロジェクトだ。
高齢化社会。
深刻な人材不足。
日本の物作りが衰退していき、中国や他のアジア圏の国が台頭している昨今。
修理とは言いつつも、その多くがユニット交換で済まされる現場。
高度なテスター、車両診断機のおかげでメカ自体に直接触れる機会が減ってきているが、それらがなければ何も出来ない所もあり、対応していない車の修理を断られるケースもしばしば。
このままでは、日本の物作り文化が本当になくなってしまう。
もっと日本を盛り上げたい、次代の車業界を担う若者を育成して業界を活性化していきたい、世界に日本の物作りの健在ぶりを見せつけたい。
このプロジェクトから、そんな意図を感じる事ができる。
若者の車離れといった話はどこ吹く風。
編者もこれまでに多くの車好きな若者と接してきたが、バブル期に比べ確かに減ってはいるものの、若者の車離れといった兆候はそれほど感じられない。
どちらかと言えば、社会がそう決めつけ、若者から離れていっているように思えてならない。
今でも、憧れの車を買いました、思い切っ切り運転を楽しんでます、カスタマイズやチューニングにどっぷりハマってます、そんな若者の声をSNS上でもたくさん見聞きする事が出来る。
そして整備士やレースメカニックを目指し、現在も多くの学生が学んでいる。
今回、平成最後となる9年目のプロジェクトを託されたのがチーム轟のメンバー達。
現在も車両の準備やメンバーの学習、広報活動などに追われているという。
つい先日まで、旧車レストアでの実績も豊富なネッツトヨタ富山において、整備合宿が行われたそうだ。
写真を見ても、真剣な眼差しの中にもどこかワクワクで楽しそうな若者の光景ばかり。
今と違い、昔の車は彼ら彼女らにとって未知との遭遇だろう。
キャブレターなんて、存在すら知らない人が多い昨今。
最新のテスターなんて当然使えないし、新品部品もだいたいは手に入らない。
アナログ的手法で修理箇所を探し出し、必要とあらば配線の引き直し、基盤の修理、部品自体の新造もあるかもしれない。
それは、数万の条件分岐のあるアミダクジの中から一つの正解を導きだすようなものだ。
マニュアルなんて存在しない。
生半可な知識だけで正解に辿りつくことは、到底不可能だろう。
正解を導き出すためにも、実際の現場で様々な経験を積み重ねていく事が必要となる。
今回の整備合宿では、チーム轟メンバーがこれから積み重ねていく様々な経験の礎となった事だろう。
もちろんメカニックだけでは海外ラリーに参戦はできない。
進捗管理や渉外、資金管理、広報、デザイン、ロジスティクスなどといった各部署に別れ、皆がそれぞれの役割を果たそうと奮闘している。
参戦には当然資金調達が必要。
そして現地でのチーム運営の検討、参加車両を現地へ送ったり宿泊施設の手配、ラリー主催者との外国語での問い合わせ、折衝、インターナショナルな広報活動、宣伝媒体やロゴデザインの作成、協賛企業の対応などなど、やる事は山積みだ。
海外を転戦するモータースポーツチームでも大変というこれら一連の作業を、ほとんど経験のない学生達が全て行うのだ。
きっとミスも多く、時間がいくらあっても足りない事だろう。
だがこれがいい。
ミスは、正解しか知らない人よりも失敗するケースを多く知りえた事になる。
それは自身の経験により深みを持たせてくれ、次の課題でも柔軟な発想と手段を思いつく事に繋がってくる。
今や、世界に通用する人材が求められる日本社会。
こうした経験を積む事で、彼ら彼女らが社会に入って大きなステップを踏んでいける事は間違いないだろう。
自社を世界に通用する企業にしていきたい、どんな状況でも前向きに柔軟に動ける人材が欲しい、そう考えている企業担当者には、ぜひチーム轟の動向を注視してもらいたい。
【取材 –文】
編者(REVOLT-IS)
【取材協力 – 写真提供 – 問い合わせ先】
チーム轟