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ラリー競技の映画オーバードライブへ登場したトヨタ・ヤリスとは?

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モータースポーツ競技”ラリー”を舞台に、腕利きメカニックの兄と天才ドライバーの弟との兄弟の絆を描いた映画オーバードライブ
映画の中で、主人公達がラリー選手権”セイコーカップ”で駆ったマシンがこのトヨタ・ヤリスなわけだが、撮影では実際に海外ラリーを戦っている本物のマシンが使われている。
そんなマシンが、今回全日本ラリー選手権第5戦モントレーin嬬恋へ初参戦を果たした。
既に多くのメディアで紹介されているこのトヨタ・ヤリスだが、ここで現在のWRC(世界ラリー選手権)全日本ラリーマシンと比較しつつ、改めてこのヤリスとはどんな車なのか、まとめてみたいと思う。

20180630_全日本ラリー_映画オーバードライブ_ヤリス_01

トヨタ・ヤリスとは、日本国内で販売されているトヨタ・ヴィッツの海外での名称。
GRMN仕様のような例外を除き、海外では3ドアモデルも設定されている。
そのヤリスを、FIA(国際自動車連盟)が定めた競技車両規定の一つ、スーパー2000(通称S2000)規定に合わせてラリー競技車両として制作したのが、本車両となる。

S2000規定とは、一定の基準の範囲内なら、自社の車で自由にパーツを組み替えて競技車両を作れるようにしたもので、三菱・ランサーエボリューションやスバル・インプレッサWRXのように、2リッターターボ+4WDの量産車を持たないヨーロッパ各メーカーがラリーに参入しやすいよう配慮して策定された経緯がある。

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その改造範囲は実に幅広い。
その主だったところを見てみると、

・エンジンは2リッタ―NAか1.6リッタ―4気筒直噴ターボのいずれかを選択でき、どちらもレブリミットが8500rpmと定められている。
その範疇なら、どの車のエンジンを利用してもいい。
・12ヵ月間で生産台数2500台以上の4座席以上の車両のみ。
・4WDへの改造はOKで、それに伴い、マクファーソンストラット形式ならリアサスの変更が可能。
・セミオートマやABSといった電子デバイスは禁止。
・軽量化、公認エアロキットの装着が可能。
・車体価格を日本円で2000万前後に抑えること
・スペアタイヤ1本、乗員2名を含めた最低重量は1350kg以上とする。

といったところ。

現在WRCを戦うマシンは全て1.6リッタ―4気筒直噴ターボ仕様だが、このヤリスは2リッタ―NA仕様。
制作も、WRCマシンはフィンランドで制作されたが、こちらのヤリスは南アフリカのチームが制作したもので、地元南アフリカのラリー選手権を戦うためのマシンとなっている。

ちなみに全日本ラリーマシンだが、いくつかのカテゴリーで細かい違いはあるものの、大雑把に言うとこんな感じだ。
・12ヵ月間で生産台数2500台以上の4座席以上の車両のみ。
・安全対策を行う改造や、国内の車検に通る程度の改造、チューニングまではOK。
・車の構造が変わる改造は禁止。
・エンジン換装は禁止。
・ターボ車にはリストリクター装着義務付け。
・マフラーは音量規制に対応が必要。

とこんな感じ。
量産車の段階でラリーに勝てる性能を持つ車でないと、優勝争いはとても困難となる。
そのためカテゴリーによっては、どうしても参加車種が同じになる傾向が強い。

映画オーバードライブに登場のヤリスと全日本ラリーマシン。
速さの面ではどうだろう?
全日本ラリーで総合優勝を果たした、新井選手のスバル・WRXとのタイム差を比較してみる

【全日本ラリー】
39:13.6(LEG1)、32:53.3(LEG2)、1:12:06.9(総合)
【ヤリス】
40:11.7(LEG1)、34:48.8(LEG2)、1:15:00.5(総合)

今回のモントレーin嬬恋ではグラベルステージもあるため、全車グラベル仕様のセッティングでターマックも走らなければならない。
ステージタイムを細かく比較してはいないものの、マシンの状況、トラブル、道路事情といった様々な要素を加味すると、ほぼ同じような性能と言っても。

もう一つ、全日本ラリーでクラス1位を獲得したヴィッツとも比較してみよう。

【全日本ラリー】
43:54.5(LEG1)、37:14.8(LEG2)、1:21:09.3(総合)
【ヤリス】
40:11.7(LEG1)、34:48.8(LEG2)、1:15:00.5(総合)

同じ車格ながら、車両レギュレーションの違いによる差がよくわかる結果だ。

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これらの事から、ラリーの最高峰で戦うマシンの車両規則が実によく考えられている事がわかる。
これなら自社の大衆向けFF車でも、スバルWRXクラスと同等のマシンを作ってWRCで優勝争いを狙える。

だが、やはり有利なのは改造範囲の広いほうのようで、世界各国のラリー選手権では、スーパー2000マシンやWRCと同じ車両規則のマシンが主流となっている。

自動車メーカーとしては、高い開発コストをかけながらも多くの販売台数を見込めないグループAマシンを年間2500台以上生産する余力はない。
それも毎年改良を加えるとなると猶更だ。

それなら、多くを販売しているFF大衆車ベースの競技車両を使ったほうが負担は少なく、販売コストの上限も決まっているわけだから、プレイべートチームも購入しやすい。
なにより改造範囲が幅広いため、やり方次第ではスバルWRXやランサーエボリューションを十分凌駕する性能を与える事もできる。
アフターパーツメーカーも、例えばスーパー2000用の改造キットを販売する事で参入しやすくなるはずだ。

そんな世界の情勢を見越してか、国内ラリーでもスーパーラリー(通称JSR)シリーズが開幕。
スーパー2000規定のような車両でも参加が可能な環境が整いつつある。
いずれ日本国内の大衆車でも、派手なエアロと2リッターターボ+4WDで武装してラリーに登場してくるかもしれない。

【文 – 写真】
編者(REVOLT-IS