3月は多くの学校で卒業式が催される時期。
毎年、東京オートサロンで卒業作品を発表してくれる自動車系学校の学生達も卒業を迎え、次代の自動車業界を支えるべく社会に旅立っていく。
そんな彼ら、彼女らの今後の健闘を祈りつつ、東京オートサロンでの奮闘を作品を通して振り返りたいと思う。
今回は、写真のマツダ・ロードスターで2018スーパー耐久シリーズに参戦する等、益々活躍の場を広げるNATS 日本自動車大学校をピックアップ。
昭和暴走族、街道レーサー世代にはニヤニヤもの。
いや、今のカスタムカー好き世代にも十分刺さる一台だ。
日産・エルグランドをベースとした、その名も”NATS ブギ☆グランド”。
名前からして漫画”シャコタン☆ブギ”も意識しているのかな?
このようなボディカスタマイズだと、実は全体のバランスを取るのが結構難しい。
一つ一つのパーツが歪んでいると全体が変に見えるし、取り付けもいい加減だとやはり変に見える。
それら構成要素が多ければ多いほど、全体をまとめる難しさは上がってくる。
しかもこれで車検を通し、公道を走らせようというのだから、制作チームは相当頭を悩ませたに違いない。
そうした苦労が、このバランス感を生み出しているようだ。
一見、海外のトラックレースをワークス参戦するToyota GAZOO Racingの車両のように思えたこちらの一台。
トヨタ・カムリをベースにピックアップ・トラックへカスタマイズした”NATS CAMRY”GTU”だ。
モチーフはオーストラリアの自動車メーカー”ホールデン”のユート。
どんな車かはリンク先から現物を見て頂きたいが、低くシャープなボディラインが魅力のトラックで、国内にもファンが多い。
ノーマルからUS仕様へフェイスリフトする際、その苦労の後を担当者が見せてくれた。
バンパーを車体に取り付けるボルト穴に注目して頂きたい。
ズレているのがおわかりいただけるだろう。
外観は見事なマッチングを見せてくれていた中で、こういった苦労があったとは。
普通にありそうに思える完成度だったためか、誰も気づいてくれないと担当者は嘆いていた(笑)
素晴らしい技術というのは、得てしてこういうものかもしれない。
提供元のディーラーさんが真っ青になったのでは?と心配になるくらい潔くカットしたリア周り。
忠実にピックアップ・トラックの荷台を再現している。
トランク内部は黒で統一しており、半円状のボックスが設置されている。
ホールデン・ユートもこんな感じなのかな?
トラックとは言いつつも、スポーティーな雰囲気を漂わせてくれた。
いきなり未来的な車が登場。
ミニ・クーパーベースの”NATS MINI REBORN”。
未来的な中にも、どこか懐かしさも感じさせる一台だ。
ビーバーのような動物的なフォルムにも見えるその車体、フロント周りはロングノーズに仕立てているそうだ。
うーん、エンジンルームや内部も見てみたかった。
銀色に見える部分はアルミだろうか?
鉄板部分も含め綺麗に仕立てている。
このアングルで見ても、歪みらしきものは見受けられない。
ここからは見えにくいが、タイヤホイールはフルカバーされていて未来の乗り物風にも見える。
所謂浮いている車というやつだが、意外と現実味があるんじゃなかろうか?
エアサスも備わっているそうで、個人的には透明なアクリルボックスの上に載せてほしかったところ(笑)
室内は純粋なミニ・クーパーそのもの。
車体は大胆なカスタマイズを施しているわりには、室内はミニ・クーパーらしさをしっかり残している。
ミニ・クーパーのオーナーさんを目隠しで乗せても、気づかずにそのままドライブするんじゃないだろうか?
レザーも張り替えたようで、高級感も十分に引き出している。
これは気持ちよくドライブできそうだ。
SUV部門の最優秀賞を得たこの車。
トヨタ・ヴェルファイアを大胆にシャコタカ。
ピックアップ・トラックへカスタマイズした”NATS VELLFIRE PICKUP”だ。
あのヴェルファイアをよく持ち上げたな!
そんな第一印象だったこの車。
そのスタイリングは、USトヨタで絶対作っていそうだ。
あちらのオフロードレースへオファーを出してもいいかも(笑)
バンパーガードも、オフロードの勇ましさを感じる。
こういう車は、上側より下側が気になる編者。
このシャコタカをどうやって実現しているか?
各部をたっぷりチェックさせてもらった。
このアングルでは、ロングスト―ロークなダンパーとバネ、両タイヤ間に横たわるフレームが目立つ。
サスペンションのジオメトリーも正常に機能してそうだ。
デフのマウント位置は下げている?
専用のマウントフレームも新設しているようだ。
サスペンションジオメトリーが適正なのは、このカスタマイズが効いているのだろう。
溶接跡に苦労の軌跡が見てとれる。
ロングストロークダンパー部のアップ。
ダンパー下部も、シャコタカに合わせてマウント部も作り直しているようだ。
先の写真と合わせてみるとよくわかるが、中途半端な溶接、中途半端な形状だとアライメントがおかしくなるし、多大な過重がかかる部分だけに破断しやすいポイントである。
しかも車検が通り、公道走行可能を前提として作らなければならないわけで、かなりの難題だったのではないだろうか?
よくまとめあげたものだと、感心しきりだった。
たまたま通りがかったとき、女性の来場客から”可愛い~!”という声を聞いたこちらの一台。
こちら、ミニクーパーをベースにカスタマイズした”NATS Stylish Stance”だ。
こちらはコンセプト通り、近年流行りのスタンス系カスタムが随所に施されている。
エアサスが備わっているせいもあるが、ミニ・クーパー系カスタムでここまでのローダウンはあまり見かけない。
エアサスの利点を生かし、広げたフェンダーへ、タイヤ・ホイールが綺麗に収まるようになっているのもポイント。
装着しているラディエイトホイールとのマッチングも、ローダウン時により映えるよう計算されているようだ。
個人的に気になったマフラー。
ワンオフ制作だそうだが、車のフォルムに見事に調和しており、良いアートになっている。
人が多くじっくり見られなかったが、出口まで綺麗にまとめられている様子。
全体のバランス感をよく考えた、見事な仕上げだ。
室内は清潔感ある白で統一しており、黒のバケットシート、キッカーのスピーカーが良いアクセントになっている。
ロールケージまで備わっているのにはびっくり。
同じ白で室内に溶け込んでいたから、一瞬気づかなかった(笑)
運転席のメーター周りやステアリングには、ピンクのアクセントもいれられており、奇抜さもなく上手くまとめられている。
こういった点も車好き女性にウケが良かったポイントなのかもしれない。
NATSは、オジさん世代をウルウルさせるのが目的なのだろうか?(笑)
そう思わずにはいられない車種ラインナップなのだが、この車もそう感じさせる一台だ。
トヨタ・MR-Sをベースに往年の名車、レーシングカー”フォード・GT40”をイメージした”NATS GT40-PS”。
MR-Sを知っている方ならおわかりかと思うが、よくぞこのスタイリングを実現させたなと驚くばかり。
全長は約500mmの差、全幅も約80mmの差があるMR-SとGT40だが、GT40のフォルム、イメージは全く崩していない。
自作のFRPパーツで上手く作りこんでいる。
マフラー出口も、GT40らしさに拘り位置が変更されている。
ノーマルMR-Sはバンパー下側が出口なので、当然この辺りはワンオフなのだろう。
これなら生粋のGT40ファンも納得するはず。
ノーマルMR-Sとエンジン特性も変わっているはずだが、ちょっと気になる点だ。
室内もMR-Sをベースに、GT40が走っていた時代に合わせたシックな感じにまとめられている。
ダッシュボードのカーボン柄がにくい。
当時の英国車っぽさを感じられるが、英国車ファンにぜひ見てみらい感想を聞いてみたいところ。
いや、本物のGT40とぜひ並べてみて比較してみたい。
今でも、箱スカと並び根強い人気のある日産・フェアレディZ S30。
レストア系ショップでも多く手掛けられた一台ではないだろうか?
そんな一台を、”NATS Fairlady Z S30”としてレストアしたのがこの車だ。
かなりくたびれたボディだったそうだが、独特のカモノハシを思わせるロングノーズとショートデッキ、フェンダーミラーまで忠実に作られていた。
240ZのGノーズなのもおわかり頂けるだろう。
タイヤ・ホイールが、当時の走り屋の定番であるワタナベとアドバンの組み合わせというのが泣ける。
室内。
この時代の車は劣化やヤレが酷く、かなりの部分で作り直しや別パーツへのスワップという手段を取りやすいが、こちらはオリジナルを上手く生かしている。
大径のウッドステアリング、ウッドノブ、シートやウィンドウハンドルも懐かしさを感じる。
内張りも綺麗に補修されているようだ。
オジさん世代が、この車を見て熱心に話し込んでいたのも頷ける。
さて、ここまでにあげたカスタムカー達は、先日無事に車検を取得、毎年恒例の箱根テストランも無事に終えた事を、ここに付け加えておく。
前述の通り、モータースポーツへも積極的に挑戦しているNATS。
自動車業界の次代を担う人材育成のため、F4レースや、こちらの全日本学生フォーミュラへも毎年参戦している。
モータースポーツは短時間で高いパフォーマンスが求められ、結果もすぐに出る非常にシビアな世界。
そこへ経験の浅い学生達が、自分達の手でパーツを作り、自分達の手でレースメカニックをこなすわけだ。
いちモータースポーツファンとしては羨ましすぎる環境ではあるが、自分達の力加減一つで結果が左右されるわけだから、本人達からしたら強いプレッシャーに晒されているはず。
時々現場に行くと、普段では見ない表情で作業に集中している学生達を見かけるが、このような環境ならそうならざる得ないだろう。
そうして鍛えられた学生達の作ったパーツは、その一つ一つを取ってみても非常にクオリティが高い。
へたなプロショップよりかは、良い仕事をするんじゃないかと思えるほど。
もちろん多くの失敗もあるだろう。
だが社会では、このようなプレッシャーにさらされる事は日常茶飯事だ、
ぜひここで得た多くの経験を、社会で存分に発揮してもらいたいものだ。
【取材 –文 – 写真】
編者(REVOLT-IS)
【取材協力 – 問い合わせ先】
NATS 日本自動車大学校