トルクレンチにトルクドライバ。
車やバイクを組み立てるうえでは欠かせないのがこれらの工具だ。
ネジやナットというものはただ力任せに締めればいいというものではない。
それら、ネジやナットを締め付けて形作る各製品に合わせた、いわゆる規定トルクというものが必ず存在している。
そのトルク値に合わせて正確に締め付けてこそ正しく組みあがるし、車で言えば、安全に走らせることができる保証となってくるわけだ。
そういったトルクレンチやトルクドライバーも、市場では様々な製品がラインナップしているが、どれも精度の向上や軽量化、剛性や機能性アップ、生産性の向上による低価格化といった面ばかりで、今後もこういった流れが続くものばかりと思っていた。
しかし今回の東京モーターショー2017では、トーニチ(東日製作所)が展開したブースで大変興味深い製品を目の当たりにする事となった。
そのいくつかをご紹介する。
一般的なデジタルメーター付きのトルクレンチかと思いきや商品の型式に見えるWiFiの文字。
これは、締め上げた時点でのトルクデータをWiFi(無線LAN)でパソコンやタブレット端末、スマートフォンへ送る事ができるトルクレンチなのだ。
こうする事で、製品への締め付けトルクを正確に管理する事が可能となる。
例えば工場の組み立てラインにおいて、ロボットが導入されていないところでは人の手で行うため、どうしても締め付けトルクにバラつきが出る。
もちろん正確なトルク値は教えてもらっているはずだが、やはりミスは出る。
熟練組み立て工なら経験的に正しい締め付け方はできるだろうが、それでも100%正確にはいかない。
そんな時、このトルクレンチのシステムを使えば、異常なトルク値を検出したら警告を出す事が出来るし、パソコンと他の機械を連動させてラインを止めたり、異常な締め付けをした製品を除外する事だって容易となる。
統計を取る事も出来るので、組立工の管理や指導にも応用ができそうだ。
また自動車整備においても、人材不足の影響で熟練整備士の作業に頼りっきりだった工場やショップでもこのシステムを使えば、熟練整備士の技能値や各車のトルクデータを予め登録しておく事で、スキルの浅い整備士でも基本的な工具の使い方さえマスターしておけば、正しいトルクの掛け方、ネジの締め方が可能となってくる。
どの業界でも人出不足が叫ばれる昨今だが、これらのシステムは今の時代にマッチしたものと言えるだろう。
ロボットの導入に予算のない中堅企業には喜ばれるのではないだろうか?
そして、特に編者が良いと思った点がある。
それは、連動するアプリやパソコンソフトを専用品にしなかった事だ。
どういう事か?
それは、Wifiの通信インタフェース仕様を公開する予定であり、パソコンソフトやWEB、アプリのプログラム経験のある方なら、誰でもこのトルクレンチを管理するソフトを作れるようにした点にある。
IT技術者やWEBサービス開発に造詣が深い方ならおわかり頂けるだろうが、YahooやGoogle、楽天やAmazon等では、各々が提供する機能を誰でも手軽に利用できるよう、インタフェース仕様や外部APIを無料公開している。
巷では、そういった機能を活用したオリジナルサービスやソフトウェアが数多く開発、リリースされており活況を呈しているわけだが、今回のトーニチが提案するトルクレンチのシステムもそれと同じ発想だろう。
流通すれば、新たなビジネスチャンスも生まれてくるかもしれない。
そして一番驚かされたのがこちらのトルクレンチだ。
なんと前述のWifi機能に加え、BluetoothやUSBなどの多彩な通信機能、タッチパネルによる操作、QRコードの読み取り機能、そして顔認証システムまで備えたトルクレンチなのだそうだ。
つまり、登録者以外ではこのトルクレンチを使えなくする事が出来るわけだ。
なんともてんこ盛りなトルクレンチでどこまで使い道があるのか最初はピンとこなかったが、説明を聞くにつれ、顔認証システムにはとても興味を引かれてきた。
Twitterでも意見を頂いたが、今話題の日産やスバルで発生した無資格者による製品検査を防止するのに役立つかもしれない。
つまり有資格者だけが工具を使えるようにして、最終締め付けや点検を行ってもらうわけだ。
もちろんトルクデータや工具の使用状況はwifiなどでパソコンやスマホ、タブレットへ送り管理しつつ、所定のQRコードの読み取りで、作業完了や承認完了のサインフラグを立てる事さえできる。
なんともタイムリーなこれらの製品、アイディア次第では、製品の品質向上、作業の効率化や信頼性向上にかなり貢献できそうだ。
残念ながらどれも参考出品となっているが、ぜひとも市場へ普及してもらいたい工具類だ。
人出不足や現状の規模で作業の効率化を図りたい企業、工場、ショップは、ぜひ注目すべきだろう。
トーニチのさらなる企業努力に期待したい。
【取材 – 文 – 写真】
編者(REVOLT-IS)
【問い合わせ】
トーニチ(東日製作所)