
今年の学生フォーミュラ2023の戦いの模様を、参加チームの中からいくつかピックアップしてお送りする。
今回取り上げるのは、工学院大学 八王子キャンパスからエントリーのKRT(工学院レーシングチーム)。
昨年は総合7位まで登りつめ、総合優勝への道も見えてきた同チーム。
まずは総合3位を目標に掲げて今大会へ挑んだが、そこでは意外な結末が待ち受けていた。

今年はイメージを一新。
前後にウイングを装着したマシンのカウルには、ダークブルーとブラックのツートンへイエローラインと白フォント等で彩るという、デザイン性の高いカラーリングが施されている。
このカラーパターンはチームウェアにも施されており、まるでプロのレーシングチームのような存在感、統一感を醸し出していた。
マシン自体も今年はフルモデルチェンジ。
ホイールベース、トレッドを縮小。
カウルはファイバーグラス製で、ウイング搭載の影響もあってか僅かに車重が増えているが、重量配分は昨年のままを維持している。
エンジンは同一ながらパワーで約8ps、トルクで約6.8nm向上。
注目は発生回転数で、パワーは10,000未満へ抑えつつもトルクは2,200ほど上昇している。
他では足回り、特にリアダンパーの配置変更が目を引く。
当然ジオメトリーも見直されているだろう。


シェイクダウンは5月中旬という早い時期に実施。
運よく立ち会う事が出来たが当初から目立ったトラブルがなく、高い完成度と旋回速度の速さで周囲を驚かせていた。
それでも慢心する事なく、大会までに多くの試走会へ参加。
熟成にたっぷり時間をかけて本番に臨む事ができた。

まずは、動的審査の前週に行われた静的審査の結果を見てみよう。
※カッコは2022年の順位
- プレゼンテーション:7位(9位)
- デザイン:11位(27位)
- コスト:19位(29位)
やはり総合3位を目指すには、静的審査の順位向上は必要不可欠。
そこで今年は、VプロセスやPDCサイクルをしっかり履行するよう努めたという。
シェイクダウンを早めに行えた事からもその効果は明らかで、順位を大幅に押し上げてきた。
苦手とするコストでも、順位は伸びきらなかったがペナルティポイントが半分に減るなど、一定の評価が得られたようだ。

次は動的審査の結果を見てみよう。
※カッコは2022年の順位
- アクセラレーション:8位(7位)
- スキッドパッド:11位(4位)
- オートクロス:2位(11位)
- エンデュランス:4位(10位)
- 効率(燃料または電力消費量):10位(8位)
【総合結果】
4位(7位)


ノウハウも豊富な同チームだけに、車検は無事通過。
試走会でのパフォーマンスから優勝候補にあげられていたものの、アクセラレーション、スキッドパッドでは順位を落とす結果に。
だがタイムは昨年より向上しており、特に昨年、満足に走れなかったスキッドパッドでは、ドライバー間でのバラツキが少ない印象を持った。
そして、オートクロスではなんと2位に躍進。
マシンコンセプトである「パワフル・キビキビ」を体現したような走りで、なんと昨年1位のチームより速いタイムを叩き出してきた。





そうして迎えたエンデュランスでは、なんと昨年の王者グランデルフィーノ(京都工芸繊維大学)と最後に走り合う事になった。
コースレコードまでも叩き出す王者に対して一発の速さでは遅れを取るものの(それでも昨年より大幅にタイムを上げているが)、バラツキの少ない安定したタイムで追いすがる展開に。
ドライバー交代時もマシンに問題なく、その後も鬼気迫る走りで王者を追い上げていた。
終盤、グランデルフィーノにはラジエータファンの落下、脱落という事象が発生。
その過程でペナルティの可能性もあったため、このまま走り抜けばエンデュランス1位も夢ではないのでは?
会場全体が固唾を飲んで見守る中、ファイナルラップで残酷なドラマが待っていた。
なんとチェッカーフラッグを見逃すという痛恨のミス。
そのままダブルチェッカーで終了という、苦い結末を迎えてしまった。
これには会場も大きくどよめき、チームも一時、重い空気に包まれた。
審議の末、結果はタイムペナルティが加算される事になり4位に。
総合でも4位と目標には届かなかったものの、実質3位以上は確実だっただけに実力は十分発揮できたはず。

チームも直に気持ちを切り替えたようで、取材では「十分やり切りました!」「チームメンバー、ドライバーとも本当に頑張ってくれました!」と笑顔で応えてくれた。

既にKRTは2024年に目を向けている。
次は総合優勝だ!とばかりに、大会終了直後に開かれた試走会へ参加。
また先日も富士エアロパフォーマンスセンターへマシンを持ち込み、今年のエアロパッケージの評価に励んでいた。
果たして総合優勝への道筋は掴めるか?
【取材・文】
編者(REVOLT-IS)
【取材協力】
工学院大学 KRT
公益社団法人 自動車技術会