箱レースバトル再び – TCR Japan 2019 (マシン編)
今、世界でもっとも熱いツーリングカーレースと言えば、TCR規定の車両で争われているスプリントレースだろう。
世界戦として開催されているFIA WTCRを頂点に、ヨーロッパシリーズのTCR Europe、アジアシリーズのTCR Asia、中東シリーズのTCR Middle East、その他世界各国でTCR規定を導入したレースが20以上開催されている。
そして日本も、2019年からTCR規定のツーリングカーレースを新たにスタートさせた。
その名もTCR Japan。
この新カテゴリーは、”スーパーフォーミュラ”を運営する日本レースプロモーション、レーシングカーコンストラクターの童夢、チューニング・モータースポーツ系企業のコックススピード3社による共同出資で設立された日本TCRマネジメント(TCRJ)が管理、運営をしている。
そういえば、1994年から開催されていたスプリントレース”全日本ツーリングカー選手権(JTCC)”をご記憶の方はいるだろうか?
シャコタン、大径ホイール、派手なエアロパーツで武装した2リッター4ドアセダン達が、ケンカバトルと言える接戦を繰り広げていたレースカテゴリーだ。
1998年を最後に幕を閉じたが、その過激なマシンスタイルは、今でもチューニング・カスタムカー好きに根強い人気を誇っており、あのようなレースをまた見たいという声もよく聞かれる。
そこで今回紹介するTCR。
毎周回、ギリギリの接戦が繰り広げられるスプリントレースであり、ワイドボディ、エアロパーツ、ローダウン、ターボ付きながら排気量は2リッター前後、18インチホイールと車両レギュレーションもJTCCと似通っている。
これはポストJTCCになりえるのではないか?
そう思いたち、まずは生で見てみようと、第3戦が開催される富士スピードウェイへ行ってみることにした。
舞台はTCR Japan 2019第3戦。
まずはマシンの種類を見ていきたいが、第3戦時点ではこちらの4台がエントリーされている。
ホンダ・シビックTypeR TCR
アウディ・RS3 LMS SEQ
フォルクスワーゲン・ゴルフGTI TCR SEQ
アルファロメオ・ジュリエッタTCR
もちろんマシンはこれだけではない。
世界各地では、スバル、プジョー、ルノー、ラーダ、オペル、ヒュンダイ、キア、セアトといった自動車メーカーのマシンがしのぎを削っている。
他にもフィアットやミニ、シトロエン、リンク・アンド・コー、フォード、ボルボも名を連ねるほどで、世界中の自動車メーカーが注目していると言っていい。
マシン自体は、自動車メーカー自身やレーシングカーコンストラクターがTCR規定に合わせて開発されたもので、お金を出せば誰でも購入する事が出来る。
そしてTCR規定は、FIAとTCRを主催するWSC(世界スポーツコンサルティング)が定めており、世界共通で運用されている。
したがってマシンさえ購入出来れば、世界中のTCRレースにそのまま参加する事ができる。
興味深いのが、所謂メーカーワークスチームが全く存在しないこと。
これはレギュレーションで定めている事であり、メーカーはあくまでマシン開発や販売、メンテナンスサポートを行うのみでレースに携わる事は禁止されている。
メーカー直系のセミワークスチームによる参戦もNG。
例えばホンダ・シビックTypeR TCRを制作したJAS モータースポーツも、自身のチームを率いて参戦する事が出来ない。
以上の事から実際のレース運営やマシンセッティングは、そのマシンを購入した各々のプライベートチームが、自身の責任や技術、ノウハウだけで進めていくことになる。
そして、TCRで採用されているBOPについて。
BOPとは(バランス・オブ・パフォーマンス)の略で、意味合いは”能力の平均化”、”性能の均等化”といったところ。
これはシーズン開始前、エントリー予定の各マシンの性能差を検証し、それぞれが均等な能力となるよう性能調整を受けることを言う。
主に最低重量、最低地上高、加給圧や回転数、エンジンパワーといった要素に対し、検証で割り出した数値の適用を各マシンに義務付けている。
例えば検証の結果、1台だけ2秒以上の性能差があるとする。
そこで検証の結果、最低地上高を上げれば均等になると判断されれば、そのマシンは他より最低地上高をアップした数値が割り振られる事になる。
その検証方法も机上だけではなく、風洞実験やテストベンチ、テストドライバーによる実走行と徹底して行われており、マシンによる有利、不利がないようTCRの専属スタッフが詳細に調べあげている。
またシーズン中も、各国のTCRレースを常にモニタリングし、シーズン前に想定していた状況にないと判断されたらその都度見直しが入るという。
ちなみに最新のBOP情報は、TCR公式サイトでも一般公開されているので、興味を持たれた方はぜひチェックを。
では、マシン各部の様子をいくつか見ていこう。
TCRでは基本、購入したマシンのままでレースを戦う事ができる。
承認パーツ以外の部品交換は認められない。
エンジンは市販車のままであり、当然ウェットサンプ。
コンピュータくらいしか弄ることが出来ない。
BOPによる性能調整でパワーアップによる恩恵も期待できないため、エンジン本来の持つパフォーマンスをECUで最適化する作業がメインとなる。
3車のブリスターフェンダーの張り出し具合を比較。
これもサイズが規則で決まっているため、その範囲内で各マシンとも最適な形状を模索する事になる。
フォルクスワーゲン・ゴルフはフェンダー端に僅かなフェンスを設けていたり、アルファロメオ・ジュリエッタは3次元形状、アウディ・RS3はシンプルなフェンダーでまとめあげているが、それぞれの空力思想の違いが見えて面白い。
そしてフロントタイヤはツライチなのに、リアタイヤが引っ込み気味なのも気になるところ。
こちらはシビックTypeRのフェンダー内側だが、タイヤハウスがカーボンで綺麗に覆われている。
こちらは同じシビックTypeRでも別チームのフェンダーアップ、
他車とは違い、フェンダーダクト下部に隔壁を立てて開口部を狭めているように見える。
リアのアングルから見ると、シビックTypeRだけがリアタイヤ剥き出し気味なのが目立つ。
リアウイングのサイズ、形状もやはり規則で定められており大きな違いはない。
強いて言えば、セダンとハッチバックによる取り付け位置の差があるくらいか?
各車、各種ユニットなどの配置がかなり違うが、ロールケージ自体の形状に大きな違いはないようだ。
足回りのパーツはマシン購入時のままを使っており、それをセッティングしながらレースを戦っている。
APレーシング、オーリンズ、ビルシュタインと、チューニングカーファンにも馴染みのある名前が並ぶ。
サスペンション形式やその取付位置も大きく変えておらず、市販車と似通っている。
5穴ハブも市販車に似通ったイメージだし、ダンパーも別タンク式車高調のようでなんだか身近に感じられた。
TCRマシンのデータは、意外と市販車のチューニングやセッティングに生かせるかもしれない。
タイヤはADVANワンメイクのスリックタイヤ。
18インチホイールは今や市販車やストリートチューニングカーでも一般的なサイズで珍しくはないが、それだけに自分のマイカーとイメージを重ね合わせやすい。
こちらではアライメント調整が行われていた。
一般にあるようなタイヤを装着したままでデジタル計測するテスターとは違い、目盛りのふられた専用の治具をホイールハブに直接装着。
そこから前後にタコ糸のような糸を張り、その状態から、キャンバーやトーといった要素を計測、調整を行っていく。
タコ糸を使ってのアライメント計測は昔から行われている手法だが、コンピューターやセンサーが発達した現代においても、タコ糸のほうがより正確に測れるという方も多い。
さてTCRのこと、それに参加するマシンの事をまとめてみたがいかがだっただろう?
今回はここまで。
次の記事では、実際に見た走りやレースの感想をまとめていこうと思う。
【取材 –文 – 写真】
編者(REVOLT-IS)
【取材協力 – 問い合わせ先】
富士スピードウェイ
TCR Japan事務局