東京農工大学小金井キャンパスの挑戦 – 学生フォーミュラ2022チームプレイバック
3年ぶりなリアル開催が叶った”学生フォーミュラ”。
物作りを学ぶ学生達の”甲子園”とも言うべき本大会へ各チームどのように臨み、どのような結果が得られたか?
今回は東京農工大学 小金井キャンパスからエントリーのTUAT Formulaをピックアップしてみた。
TUATは”Tokyo University of Agriculture and Technology”の略。
人数は17名。
3年生が11名、2年生が3名、1年生が3名という内訳で、4年生やOBの協力を仰ぎながら運営を行っている。
こちらが製作されたマシン。
エンジンはホンダのバイクCBR600RR用のPC40Eで、駆動系はチェーンドライブにシュアトラックLSDを搭載。
排気側は昨年から変更なし。
4-1集合でマフラーを前方ぎりぎりまで伸ばし、フロントタイヤ直前でサイドへ向けるレイアウトを取っている。
長さを確保する事で、消音効果を上げる狙いもあるという。
吸気側はサージタンクからインテークマニホールド、スロットル、エアファンネルを変更。
昨年までマシン右側に吸気口を設けていたが、その結果、遠い1番、2番シリンダーに空気が上手く入らなくなり、燃料過多によるカブりでストップするトラブルが発生。
サージタンク形状や燃調を詰め切れなかったせいもあるが、やはり根本がまずいのではと、今年はマシン中央から吸気する方式に変更されている。
また、これまで低い回転数でピークトルクを出すよう山の低いカムを使っていたが、その後の走行データで高回転でのパワーが必要な事がわかったため純正カムに変更。
車検で吸気口外枠にファイアーウォールを巻くよう指示されたため、吸気効率が若干下がっているが、それでもまずまずのパフォーマンスは出せているようだ。
次に車体フレーム。
こちらは開催中止となった2020年仕様の設計を引き継いでいる。
当時、フレーム構成を大きく変えていたものの、大会中止でその評価が出来なかったため、あらためて今大会で生かしてみようと採用された。
レギュレーションで難しい面はあったものの、試行錯誤を重ねた事で自分達なりの最適解を見い出している。
次は足回り。
こちらも、2020年仕様のジオメトリー設計を引き継いで制作されている。
今回は多くのセッティングや走行データを取るべく、早めの完成を目標に作業が進められた。
直前のテスト走行では強アンダー傾向に悩まされたものの、バネの変更やアームの見直しを行う事で対策。
そのかいあり車検も無事通過。
オートクロスやエンデュランスでも良いパフォーマンスをだったという。
次にエアロデバイス。
コンセプトは磨きのかかったベーシック。
そこには定常性能の向上という目的が込められている。
指標としてスキッドパッドとアクセラレーションで得点を取る事を定めていたが、それには旋回性能を高める必要がある。
そこで、コーナリングフォースを高める設計を行ってきた。
中でもリアウイングに注目。
実は2019年大会で一度採用されたが、当時はベニヤ製で重く、2枚のエレメントで迎角を取る設計がデメリットになっていた。
そこで今年は軽量化と、さらなる空力性能の向上を狙って翼端板の大きさ、形状を変更。
素材もグラスファイバーと、積水化成品工業から提供された硬質アクリル発泡体”フォーマック”をサンドイッチしたものにしている。
これにより40%の軽量化が達成できた。
剛性面も申し分なく、最後のエンデュランスまで無事に走りきっている。
本来なら、リアウイングの効率を高めるべくフロア下面にアンダーパネルの装着を予定していたが、試走による確認が取れなかったため、路面との接触で失格になるリスクを回避すべく装着を断念している。
その影響が気になるところだが、元々プラスアルファでの性能向上が目的だったため、相対評価で6%のダウンフォース減に収まったという。
これには、当初の設計にはなかったフロアパンの装着が効いているのでは?と考えられている。
次はコクピット周り。
まずステアリングだが、ドライバーの好みとなるよう事前に様々な形状のステアリングを握らせながら、研究して制作されている。
素材は、大同DMソリューションから提供されたアルミーゴHard。
これはアルミ合金の一種で非常に固く、それでいて軽さや加工性の高さも売りとなっている。
写真のように薄く、大きく穴抜きしても強度に全く問題がなく、それによる軽量化にも一役買っている。
軽量化への拘りはステアリングシャフトにも見える。
ここには金属製ベアリングの代わりに、イグスより提供を受けた樹脂製ベアリングを装着。
金属製と遜色ない動きながら、これだけでもかなりの軽くなったという。
この樹脂製ベアリングはタイロッドにも使われており、こちらも軽量化に貢献しているとの事。
他、協和工業提供のユニバーサルジョイントとラックは上島熱処理工業所の支援で制作されているなど、多くの企業様のサポートで成り立っている。
次は電装系。
カプラーや配線類は住友電装や配線コムから提供、支援を受けた製品を使っている。
設計自体は前年のものを踏襲しているが、今回からレイアウトを変更。
これまでシート内にECUやリレーなどを配置していたが、ドライバーの5秒脱出試験で引っ掛かてしまう事があったため、新たに電装系をまとめたボックスを作成。
それをリアウイング直下、エンジン背後に配置している。
スムーズなドライバー脱出はもちろんの事、整備性向上にも寄与するこのレイアウト。
開発中は水の進入による電装トラブルなどあったものの、現物合わせによる試行錯誤を重ねた結果、そういったトラブルを無くす事が出来たという。
今後もこの形を継続しつつ、最適化を進めていくようだ。
ではここで大会結果を見てみよう。
事前に行われた書類提出、シェイクダウン証明提出、オンラインによる静的審査、動的審査では以下の結果となった。
ESA/ESO, SES, IAD, ESF, and FMEA:ペナルティ無し
デザイン審査:31位
プレゼンテーション審査:25位
コスト&製造審査:12位
シェイクダウン証明:承認
アクセラレーション:未出走
スキッドパッド:10位
オートクロス:16位
エンデュランス:14位
燃費:17位
総合:12位
2019年大会から大きく順位をあげ、さらにベストエアロ賞3位という栄誉も得る事となった。
まず静的審査について。
前年に比べて大幅に順位が向上。
特にプレゼン審査の順位が上がったのが大きいようで、プレゼンの得意なOBに教えを請うたり、プレゼンの練習として、各自でユニークなテーマを掲げて取り組んできたという。
そのテーマの中には”レールバイク上で学生フォーミュラで走らせるには?”というものまであったようで、楽しみながら練習を続けるやり方の一つとして参考になりそうだ。
次に動的審査について
マシン自体、8月の頃に感じたアンダー傾向と乗り辛さは影を潜め、セッティングが煮詰まるに従い乗りやすく、良く曲がるマシンで走れたとドライバーも好感触。
しかし2日目のプラクティス中、なんとエンジンが壊れるトラブルが発生。
この事態にチーム側は、マシンを東京に持ち帰って修理する事を決断した。
この決断の裏には、2019年大会での完走まであと半周を残してリタイアした悔しさと、今年はなんとしても完走したいという強い思いがあったようだ。
結局夜通しで修理、エンジン交換する事になり、その作業も無事完了。
急ぎエコパへUターンして審査に挑む事となった。
残念ながらアクセラレーションには間に合わなかったものの、その他のセッションは全て走破。
結果、コロナ過での開催延期期間を含め、実に4年ぶりに完走を果たした。
チームメンバー全員喜びもひとしおで、とても思い出深い2022年大会になったようだ。
苦難を乗り越え得た完走と総合12位という記録。
もしエンジントラブルがなかったらどうなっていたか?
マシン自体もパフォーマンスを上げられる余地が多そうで、ドライバーからもいくつかリクエストがあがっているという。
2023年大会では、マシンの真のポテンシャルを見る事になるかもしれない。
【取材・文】
編者(REVOLT-IS)
【取材協力】
TUAT Formula
自動車技術会