愛知スカイエキスポ に挑んだ各チームの状況 – 学生フォーミュラ2024レポート3
愛知スカイエキスポ という新天地で開催された学生フォーミュラ2024日本大会。
どのチームも事前練習なくぶっつけ本番で乗り込む事となったが、果たしてどのような様子だったか?
動的審査初日から振り返ってみた。
新たな気候、新たな路面
ご存じセントレア(中部国際空港)と同じ島内にある愛知スカイエキスポは、周囲を海で囲まれている。
そのため大会期間中は気温だけでなく湿度も高く、気候に不慣れな学生の中には体調を崩した者もいるほど。
期間中、天気予報が示した最高気温は約32度。
路面温度は50度オーバーと7月とほとんど変わらない。
事前情報では舗装は良いものの段差など激しいギャップが多く、サスペンションを壊すチームもあるのでは?と伝えられていた。
また有識者の中には、エンジンマッピングの再調整が必要では?という声も。
そこで数チームに話を聞いてみたが、まずサスペンションは1チームだけダメージを受けたという声が聞かれたのみで、その他は皆無。
そしてエンジンマッピングについても大きく調整したような話はなく、事前に調整した仕様で臨んだようだ。
東と西で別れた反応
これは走行後のインプレッションだが、数チームに話を聞いたところ興味深いコメントが得られた。
関東のチームからは”路面が滑りやすい”、関西のチームからは”テストで走った泉大津フェニックスとそんなに変わらない”という。
ちなみに泉大津フェニックスとは大阪泉大津市にある多目的広場で、そこを関西の学生フォーミュラチームが貸し切り、何回か合同のテスト走行会を開いている。
あそこも海に囲まれた埋立地であり、気温や湿度、海風による影響など愛知スカイエキスポと似た環境と言える。
結果を見るかぎり大きなアドバンテージにはならなかったようだが、もし今後、上位を関西勢が含めるようになったなら、テスト走行を行う場所も考慮する必要が出てくるかもしれない。
ビッグチェンジかスモールチェンジか?
今年はどのチームも走行データがないため、動的審査では前年のスモールチェンジ仕様が有利では?と考えていたが、蓋を開けてみると、カーボンモノコックというビッグチェンジを果たした1位の京都工芸繊維大学に対し、昨年のスモールチェンジ仕様な日本自動車大学校が2位で急追。
3位以降も昨年型の正常進化というチームが並ぶ結果となった。
一見、京都工芸繊維大学が追い立てられているように見えるが、ここで注意したいのが前述のカーボンモノコック化によるビッグチェンジ。
当然足回りなど多くの設計変更があったはずで、ベースセッティングの追及だけでなく新路面への対応など、いつもより多くのタスクをこなさなければならない。
なみの学生なら四苦八苦していただろう。
しかし、そこは6度の総合優勝を誇る京都工芸繊維大学。
厳しい状況下もこれまで積み重ねてきた実績と経験、鍛え上げたチーム力で対処し、見事逃げ切ってみせた。
他チームからしたら、データのない今年は下剋上のチャンスでもあったが、京都工芸繊維大学をはじめ多くのチームがデータを得た事で、来年はさらに強力になるはず。
総合優勝を狙うチームは、今年以上のハードワークが必要となってくるだろう。
走れるチームと走れないチームの違いは?
今年も残念ながら、動的審査に参加できないチームが出てしまった。
シェイクダウンに間に合わなかったチーム、車検を通過できなかったチームと様々だが、中には事前のテスト走行で好評価を得ていたチームや、期待されるマシン諸元を提示してきたチームも含まれており、なぜこんな状況になったのか不思議に感じていた。
いくつかお話を伺ってみたが、気になったのがまとめ役が不在、もしくは機能していないという点。
優れたスキルややる気にあふれるメンバーを揃えていても、個々が自分のやりたいようにやってしまいマシンがまとまらずスケジュールが遅延。
シェイクダウンに間に合わない、完成はしたが細かいところまで配慮が足らずにトラブルが多発、時間がなく車検対策が不十分なまま大会へ….
といった状況を生み出している。
全メンバーが目的と現状認識、作業の方向性を共有出来ていれば良かったかもしれないが、少人数ならともかく大所帯では難しいところもあるだろう。
スケジュールを見ながら”今、何が必要で”、”何を行えばいいか”、”何が障害となっているか”を見極め、その都度、最善の方針を提示(いくつかの仕様を捨てる決断など)してメンバーをまとめていく者がいれば、こうはならなかったように思う。
モータースポーツで勝つか?製品力で勝つか?
EVクラスで圧倒するパフォーマンスを見せている名古屋大学だが、今大会では動的審査で一歩譲ったものの静的審査は堂々の1位。
これらの結果により総合2位まで登りつめている。
モータースポーツ要素の強い動的審査だが、ものづくりコンペティションを謳う学生フォーミュラでは製品力を見る静的審査も重要で、総合優勝を狙うなら当然抑えておく必要がある。
しかしチームの大半は静的審査を苦手としており、まずは確実に走るマシンを作ろうと、思い切って動的審査にリソースを割いたマシン作りをするところもある。
その結果、動的審査を走ればハイスコアが期待できるが、走れなければ総合順位が大幅ダウンという状況になりやすい。
今回もそのようなチームがいくつか見られたが、気になったのが車検で躓き気味な傾向にある事。
静的審査は製品(マシン)を細部まで理解しているかがポイントとなってくるが、それが低いという事は理解不足であり、車検に向けた対応でも見落とす点があるのではないだろうか?
わかりやすい例として、今年総合9位に躍進した九州工業大学があげられる。
近年は静的審査にも力を入れており、今年はなんと5位にアップ。
そして去年も今年も、車検を最速で通過するという活躍を見せている。
この事からも車検の一発通過は、静的審査にどれだけ力を入れたかにかかってくるのかもしれない。
海外チームの傾向
今年、海外から参加したチームの内訳を見ると中国が4、台湾が2、インドネシア、タイ、マレーシアがそれぞれ一つずつとなっている。
この段階ではICVクラスが5、EVクラスが4となっていたが、今年初めの参加申請リストを見ると中国が14(ICVが7、EVが7)、台湾が6(全てEV)、インドネシアとタイが3(ICVが2、EVが1)、バングラデシュとロシアが2(ICVが1、EVが1)、マレーシアが1(ICV)、カザフスタン、ニュージーランドがそれぞれ1(EV)で、その内訳はICVクラスが13、EVクラスが19と逆転している。
ICVクラスが多い国内勢と比べると、かなり対照的。
たまたまなのか国の取り組み、学校の教育事情を反映してのものなのか?
昨今、世界の自動車産業は中国、韓国、台湾といった国々が勢力を強めているが、そうした背景と海外の学生フォーミュラ事情を重ね合わせてみると、興味深い傾向にぶつかるかもしれない。
そういえば今年のデザイン審査だが、トップ4の三分の二を中国チームが独占。
国内勢は名古屋大学が3位に食い込んだのみで、3連覇を果たした京都工芸繊維大学、昨年2位の京都大学も今年は順位を落としていた。
中国産業の勢いがそのまま反映した結果に思えたが、気のせいだろうか?
【取材・文】
編者(REVOLT-IS)
【取材協力】
公益社団法人 自動車技術会