灼熱のラストエコパ ~ 学生フォーミュラ2023レポート2
例年より1週間以上早く開催された今年の学生フォーミュラ日本大会。 奇蹟的に台風など悪天候にもぶつからず、期間中は全てドライコンディション。なんと猛暑の中で進行された。 経験の少ない状況に学生達はどう挑んだか? 海外勢の参加、EV勢の躍進、来年の会場移転で最後のエコパ開催と、トピックスの多かった本大会をまとめてみた。
デザインファイナルの現場を見ていこう。
静的のデザイン審査は既に5位以下の結果が出ているが、毎年1位から4位は動的審査会場で選出されるのが恒例となっている。
今年は昨年のチャンピオングランデルフィーノ(京都工芸繊維大学)と2位のKART(京都大学)、Formula Team FEM(名古屋大学)に中国のTongji University EV(同済大学)がノミネートされた。
結果は1位がFormula Team FEM。
熟成された4輪インホイールモーター仕様のトルクベクタリングシステムに加え、独自のカーボンモノコックシャシーとエアロダイナミクスが評価された。
こちらは早朝のピット風景。
早いところでは朝7時半から走行開始するところもあるため、チームによっては4時、5時に起きているところも。
宿では深夜まで作戦会議をしていたチームもあったとかで、ハイなテンションや疲労の色が出ている方も見られた。
いよいよ動的審査の最後を飾るエンデュランスがスタート。
決められたコースレイアウトをドライバー2人が10Lapずつ交代して走りきる審査競技で、ただ速く完走すればいいだけでなく、走行中の燃料や電力の消費量も採点に加えられるため、走行中のドライバーマネジメントも重要となってくる。
毎年必ず雨に見舞われていたエコパだが、時折雲は出るものの今年は最終日まで快晴。
太陽に照らされたコースのライン上には、ラバーグリップがしっかり乗っていた。
前日、一部チームからプロテストがあり、それが認められた事でエンデュランスの出走順位が変更されたが大きな影響は無し。
グループBの茨城大学学生フォーミュラ部(茨城大学)からスタートした。
EV総合優勝か?と期待のかかったFormula Team FEMだが、ドライバー交代後にまたしても試練が。
モーターからオイル漏れが見つかり、その場で無念のリタイヤとなってしまった。
しかしEVクラスは文句なく優勝。
さらに総合優勝を争うICVクラスに幾度となく冷や汗をかかせていただけに、少しは溜飲を下げたのではないだろうか?
来年、新たな開催地での初栄冠を勝ち取るのはこのチームかもしれない。
いよいよ、事実上の総合優勝争いとなるグループAファイナルへ。
今年の出走チームは以下の通りとなった。
- Formula Factory NATS(日本自動車大学校)
- GFR(岐阜大学)
- Meijo Racing Team(名城大学)
- CUFP(千葉大学)
- KRT(工学院大学)
- グランデルフィーノ(京都工芸繊維大学)
序盤はFormula Factory NATSとGFRが快速ぶりを見せつけ、後のMeijo Racing TeamとCUFPが一歩後退する展開。
KRTとグランデルフィーノの結果を待つばかりとなったが、ここで両チームが歴史に残る素晴らしい戦いを見せてくれた。
学生フォーミュラチームや関係者の間ではご存じと思うが、KRTの第一ドライバー、グランデルフィーノの第二ドライバーはプライベートでも友人同士で、普段の実務の合間に学生フォーミュラ全体を牽引する活動も行っている。
もちろん大会ではお互いを最大のライバルと位置づけ、「あいつだけは負けたくない!」と徹底的にぶつかりあっている。
その気合いがチーム全体に伝わったのか、非常にレベルの高いマシンとチーム力で大会に臨んできた。
スタート直後から両第一ドライバーともばちばちのアタックモード。
特にグランデルフィーノは、アウトラップから驚愕の全体ベストを叩き出す。
KRTも負けじと翌周で迫るタイムを記録するものの、この後会場は大きなどよめきに包まれる。
なんとグランデルフィーノ。
次の周回は3秒近く引き離すコースレコードを樹立してしまった。
このまま引き離すかに思えたが、KRTも徐々にペースアップ。
毎ラップ、先ほどの全体ベストより1秒近いタイムで周回を重ねてきている。
グランデルフィーノもベストタイム以降は若干ペースを落とし、KRTと同じくらいのタイムで揃えてきた。
最初の10Lap、バラツキの少なさはKRT、平均タイムは僅かにグランデルフィーノが上か?
そしてドライバー交代。
両チームとも第二ドライバーは無事に走り出したが、アウトラップは全体ベストの1秒落ちながら、その後はファーストドライバーと同等のタイムで周回を重ねる。
18周目、ここでグランデルフィーノにハプニング。
なんとラジエーターファンが脱落してしまった。
オレンジポール旗が出されて万事休すかと思いきや、直後にマシンから完全に外れてしまったため、その対象ではなくなった様子。
これが序盤に発生していたら水温が厳しくなっていたかもしれず、今年のグランデルフィーノはツキも味方していたようだ。
そしてKRTのファイナルラップでもドラマが待っていた。
最期のエコパを飾ろうと余程集中していたのだろう。
なんとチェッカーフラッグを見逃してしまい、もう一周アタックに向かってしまった。
もちろん違反行為。
この後黒旗が振られて終了となった。
なんとも複雑な結末となってしまったが、それでも両チームとも全力を出し切ったとばかりに表情は晴れやか。
互いに健闘をたたえ合っていた。
こうした状況もあってか本来ならこの後表彰式が行われるはずだったが、審査員サイドからより時間をかけて結果を審議したいとの申し出があり、当日の発表は延期に。
そして数日後に開示された最終結果。
総合1位はグランデルフィーノで2連覇達成。
エンデュランスで黒旗が出されたKRTは、結局15秒のペナルティが課せられる事に。
それでも、昨年より3つポジションが上がって総合4位となった。
そして総合2位はFormula Factory NATS、3位はGFRと、昨年躍進したチームと雪辱を果たしたチームがトップ3を含める結果に。
海外勢は、タイからエントリーのPrince of Songkhla Universityによる総合10位が最上位となった。
今年は取材で訪れたカメラマンも苦笑するほど、多くの来場者に恵まれた学生フォーミュラ。
最後のエコパ開催もあってか、思い出の地を見ておこうとばかりに学生フォーミュラOBも多く訪れていたようだ。
来年は静岡から西へ移動。
愛知県常滑市セントレアのAichi Sky Expo(愛知県国際展示場)で、新たな学生フォーミュラ日本大会が幕を開ける事になる。
早くも2024体制を整えたチームの中には、新会場の情報収集に掛かっている所もあるようだ。
果たして、新会場で最初の勝者となるのはどのチームか?
【取材・文】
編者(REVOLT-IS)
【取材協力】
公益社団法人 自動車技術会
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