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ホンダに見るF1マシンの変遷1

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現在、ホンダウェルカムプラザ青山にて、「2021年シーズンF1開幕記念展示」と題した過去のホンダF1マシンやF1エンジン等の展示イベントが開催されている。
今回は、ホンダの第3期F1活動開始前に試作されたオリジナルマシン「ホンダ・RA099」も展示されるとあって、多くのファンからも注目を集めている。
さっそく編者も現地に赴き、それぞれの時代を担ったF1マシン、F1エンジンを堪能させてもらった。
今回はそれら展示品を見つつ、それぞれの違いや技術の変遷について感じた事をまとめてみた。
※あえて詳細な情報を省いたり触れていない事柄もあるので、ご了承頂きたい。

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【ロータス・ホンダ99T】
日本人初のフルタイムF1ドライバーである中嶋悟とアイルトン・セナが駆ったマシン。
当時では珍しいアクティブサスペンションが備わる。
エンジンはホンダV6ターボを搭載。
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【ホンダ・RA099】
ホンダの第3期F1活動前に試作されたマシン。
ホンダ・レーシング・ディベロップメント(HRD)が設計し、制作はイタリアのレーシングカーコンストラクター「ダラーラ」が担当。
エンジンは無限ホンダV10を搭載。
テストでは好結果が出せたものの、フルコンストラクターによる参戦が却下された事でお蔵入りとなった。
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【ホンダ・RA106】
38年ぶりにフルコンストラクターとして復帰を果たした時のマシン。
シームレスギアボックスなど革新的技術も投入。
エンジンはホンダV8を搭載。
ドライバーのジェンソン・バトンが第13戦で初優勝を達成。
さらにホンダへ、39年ぶりのフルコンストラクター3勝目をプレゼントした。
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【レッドブル・ホンダRB16】
空力の鬼才エイドリアン・ニューウェイの指揮で開発されたマシン。
PUはホンダV6ターボハイブリットを搭載。
ドライバーのマックス・フェルスタッペンとアレクサンダー・アルボンの手で2回の優勝と11の表彰台を記録。
コンストラクターズランキングも2位となる。

F1の歴史は、いたちごっこの歴史と言ってもいい。
確信的な技術や考え方が披露されると特定チームの独走やコスト高になるからと即座に封じられ、痛ましい事故の発生は安全対策という名の様々な足枷が導入されてきた。
とあるモータースポーツチームからは、”せっかくエンジニアが苦労して見つけたアドバンテージが無いものとされる現状では、モチベーションの維持が難しい”と嘆く声も。
それでも、素人目からは”これ以上どこを開発できるのか?”、”よくこんな発想を導き出したものだ”と思う程、毎年とても完成度の高いマシンを各チームは送り出してくるのは本当に驚くばかり。
こうしている今も”もっと他にやれる事はないか?”、”見過ごしている事はないか?”と知恵を絞り試行錯誤を重ねながら研究開発を進めているという。

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【ホンダ・RA300】
フロント周り
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【ロータス・ホンダ 99T】
フロント周り
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【ホンダ・RA099】
フロント周り
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【ホンダ・RA106】
フロント周り
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【レッドブル・ホンダ RB16】
フロント周り

前方からのアングルで各マシンを並べてみた。
その時代で使われたタイヤの種類、形状の変遷もここからよくわかる。
初期のF1にはウイングの概念そのものが生まれておらず、もっぱらタイヤとサスペンションによる”メカニカルグリップ”頼りとなっていたが、そのウィングの登場とウィングカーによる車体底面と気流の使い方が考えだされた事で状況は一変。
以来、多くの”エアログリップ”を得ようと様々な形状のものが生み出されてきた。

こうして見ると、ロータス・ホンダあたりは鈍重で無骨な印象だが、最新のレッドブル・ホンダあたりでは、よりコンパクトで無駄のない洗練された印象を受ける。
車体にぶつかった気流の動きをイメージしてみても、後年のマシンになるほど綺麗に車体後端まで流していこうとする意図が見てとれる。
その多くはレギュレーション変更による影響を受けてのものだが、ウイングやフロントノーズ形状はもちろんの事、サスペンション形状やそのマウント位置、ダクト形状まで年々変化し続けている点も興味深い。
その拘り具合を表す逸話として、タイヤが溝有りのグルーブドタイヤ装着を定めていた時代、サイズアップによるグリップアップ案を推すタイヤメーカー側と、サイズアップによる気流の乱れを嫌うチーム側とで揉めた事もあったとか。
(この時は最終的に、タイヤメーカー側の案が通ったという)

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【ホンダ・RA300】
リア周り
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【ロータス・ホンダ 99T】
リア周り
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【ホンダ・RA099】
リア周り
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【ホンダ・RA106】
リア周り

※残念ながらレッドブル・ホンダ RB16のリア周りが撮影できず。

次はリアからのアングル。
フロント側と同様に、”メカニカルグリップ”から”エアログリップ”重視へ移り変わっていく様がよくわかる。
当初は主にディフューザーと、リアを絞りこむ所謂コークボトルライン形状を工夫する事でエアログリップの大幅増加を狙っていたが、レギュレーションの変更で形状やサイズに制限がかかるようになり、そこから車体上面の気流コントロールや各パーツ形状に至るまで手を入れる範囲が大幅に広がる事となる。
気流の乱れとなりそうな些細な突起も嫌い、そのどれもが気流をスムーズに後端に流す形状へ変えられていく。
そして、排気ガスをウイングに吹き付けてその効果を高めたり、ディフューザーから排気ガスを排出して気流をコントロールするという手法まで生まれほどで、この領域の開発は熾烈なものとなっている。

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【Honda RA300】
斜め右リア上面
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【ロータス・ホンダ99T】
斜め右リア上面
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【ホンダ・RA099】
斜め左リア上面
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【ホンダ・RA106】
斜め左リア上面

※残念ながらレッドブル・ホンダ RB16のリア周りが撮影できず。

今度は車体上面を見るアングル。
ウイングのなかった時代ではメカや補器類がむき出しのF1マシンも、その年のレギュレーションに合わせて最適な空力開発が行われてきた。
このアングルで見ると、ロータス・ホンダ時代はシンプルだった空力デザインも、後年はよりコンパクトに複雑な形状へ変化していった事がわかる。
また、安全対策のために義務付けられたクラッシャブルストラクチャー(衝撃吸収構造体)も大きなポイントだろう。

定期的に様々な規制で空力デザインが制限される中、少しでもアドバンテージを得ようと、今でも規制の抜け道を探す作業が続けられているF1マシン開発。
その過程で驚くような場所へ様々な空力デバイスが付加されていった時代もあったが、このアングルからもその試行錯誤の度合いが感じ取れる。

ホンダに見るF1マシンの変遷2へ続く

【文 – 写真】
編者(REVOLT-IS