東京オートサロン2020ピックアップ
各種メディア事業を手掛けるウェルパインメディアでは、ウェルパインモータースポーツとして数年前から全日本ラリー選手権に参戦している。
昨年は板倉麻美、梅本まどかという2名の女性選手を起用し全日本ラリー選手権にフル参戦。
また今年開催のWRC(世界ラリー選手権)ジャパンのプレイベントたるセントラルラリー愛知・岐阜にも参戦し、堂々たる走りを披露してくれた。
茂原(茂原ツインサーキット)の女王と言われるほど、愛車のスバル・インプレッサWRXでサーキットを走り込んでいる板倉選手。
元アイドルグループSKE48出身であり、4輪だけでなく2輪でのメディア活動も精力的にこなす梅本選手。
その二人が組んでのラリー参戦は、業界に新風を巻き起こしつつあるようだ。
そうして迎えた2020年。
ウェルパインモータースポーツは東京オートサロンで新たなモータースポーツ参戦体制を発表した。
板倉選手、梅本選手を擁してのWRCドイツ、WRCジャパンへの参戦。
この驚くべきビッグプロジェクトに合わせ、これまで使用していたトヨタ・ヴィッツのラリーカーに変わり、WRCのR3カテゴリー向けに開発されたラリーカー「トヨタGT86 CS-R3」を導入する事も合わせて発表された。
二人の女性選手を支えるそのマシンについて、軽く紹介しておこう。


このマシンは、主に欧州などでトヨタのモータースポーツ活動を統括するTMG(トヨタ・モータースポーツ有限会社)で開発、販売されている市販ラリーカー。
TMGと言えば古参のWRCファンならお馴染み、元TTE(トヨタ・チーム・ヨーロッパ)を母体する組織で、過去にはセリカやカローラでのWRC総合優勝やF1での活動といった輝かしい実績を誇っている。
近年ではWEC(世界耐久選手権)、ヤリスWRCのエンジン開発などで活躍しているが、この「トヨタGT86 CS-R3」といったマシン開発を行いながら、モータースポーツに参加するプライベーター向け支援も積極的に行っている。
先にも書いたが市販ラリーカーなので、購入直後の状態でWRCに参戦できるこのマシン。
とは言え、市販車と全日本ラリー選手権を戦うマシンとはレギュレーションも違うため、その作りは興味深いものがある。
気になった点をいくつか見ていこう。
エンジンは純正のFA20水平対向エンジンを専用チューニング。
最大出力は238馬力まで引き上げられている。
そして市販車にあるようなオイルパンにエンジンオイルを溜めていくウェットサンプ方式とは違い、別の箇所に配置されたオイルタンクからエンジンオイルを圧送するドライサンプ方式を採用。
これによりオイルパンを取り払う事が出来たため、通常よりエンジンを低くマウントする事ができた。
元々水平対向エンジンは低重心で駆動バランスが良いと評されているが、さらに低い位置にエンジンがマウントされた事により、そのメリットはより際立つ事になる。
もちろんリアデフへ駆動を渡すプロペラシャフトとその配置も、ドライサンプ化に合わせた対応がなされている。
彼女達の仕事場となる室内。
我々が普段見ている光景とは全然違い、街乗りに必要なものは全て廃され、ラリー競技に必要な装備のみで構築されている。
ミッションは6速シーケンシャル。
ハンドブレーキ(サイドブレーキ)も扱いやすい位置にセッティングされている。
ディスプレイや配線類など、綺麗にまとめられているのはさすがメーカー製の市販ラリーカーといったところか。
ペダルは一般で広く使われている吊り下げ式ではなく、オルガン式を採用。
ドライバーの体格に合わせ、ペダルボックス自体もその位置を細かく調整する事ができる。
戦闘力向上には、ドライバーの運転しやすいポジションでドライブできる事が不可欠。
なにより世界に向けて販売する「トヨタGT86 CS-R3」だけに、日本人だけでなく海外の様々な体格の人にも合わせられるようにしてある。
スイッチ類や機器、配線類を気持ち低い位置に配置してるのは低重心化への拘りか?
市販ラリーカーでは大きな戦闘力アップは望めないが、それでもレギュレーションの許す範囲内で戦闘力向上を図ろうとしているのかもしれない。
これと同じマシンが昨年、スーパーGTドライバーでもあるヘイキ・コバライネン選手の手で全日本ラリー選手権デビューを果たしており、好成績を得ている。
そして世界でもこのマシンでの活躍の報を多く見聞きしている。
それだけに板倉選手、梅本選手にも期待が高まるところだが、そのステアリングを握る板倉選手に聞いたところ、なんとFR車は初めてという。
これまで4WDとFFばかり乗ってきたそうで当初は不安ばかり募ったそうだが、チームや周りの熱いサポートや指導のおかげもあり、今はせっかく与えられたチャンスを物にしようと、本番までに乗りこなしてみせるとその奮闘を約束してくれた。
果たして結果はいかに?
彼女達と「トヨタGT86 CS-R3」の走りに注目していきたい。
【取材 – 文 – 写真】
編者(REVOLT-IS)
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